2018年県展受賞作品


第68回(2018年)埼玉県美術展覧会受賞作品と審査評

ページの先頭へ第1部「日本画」

審査主任 斉藤博康(さいとうひろやす)
第68回日本画部門の一般・会員の出品点数は184点で、例年に比べて若干の減少がありました。
日本画の画材は岩絵の具、膠(にかわ)などデリケートな扱いを必要とする材料です。それを習得し、思い通りに表現する為には多くの時間を要します。
その上で多くの方々が挑戦することになります。今回展でも16才から91才までの幅広い年齢層から出品があり、新鮮で意欲的で多様な作品の競い合う場となりました。
それらのなか審査員一同、慎重に審査を重ねて128点を選定いたしました。
時代時代において、ある傾向の作風が目につくように思います。出品作品は、それぞれの美意識で、それぞれに表現されており、真摯に制作されている姿が目に浮かびます。
厳しいことですが互いに刺激し合うことで更なる制作の糧にして役立てていただくことを望みます。

■埼玉県知事賞

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「刻(とき)の記憶」
斉藤由(さいとうゆう)
刻の記憶
清涼な空気感漂う画面です。それぞれのモチーフは作者のその時々の鮮明な思い出の品でしょうか。ノスタルジーでしょうか。
だれにでもあるその時々の記憶の世界に誘ってくれる作品となっています。

■埼玉県議会議長賞

「いのちの詩(うた)」
池田睦月(いけだむつき)
いのちの詩
画面いっぱいにあふれるばかりのケイトウの花。自然のエネルギーと時の移ろいでしょうか。あでやかな色彩と堂々とした立ち姿に作者の思いが良く表現されています。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「りんごのかおり」
平舘明子(ひらたてあきこ)
りんごのかおり
リンゴを持った室内の少女像。柔らかな色彩の画面の中、りんごの香りが少女の全身をつつみ、室内を満たしています。
その爽やかな香りが画面から広がり、見る者に伝わってくるような美しい作品です。

■埼玉県美術家協会賞

「bright」
杉山花(すぎやまはな)
bright
作者と同世代と思われる人物像は、重厚な色彩と確かな構成の上に更にしっかりした描込みがされております。今を生きる若者の内に秘めた力強い姿と、真摯に生きる作者の姿が重なり伝わってくる良い作品です。

■埼玉県美術家協会賞

「宵祭り」
中谷小雪(なかやこゆき)
宵祭り
厚い信仰の心が脈々と受け継がれてきた祭。邪気を払うのか豊作を願うものなのか。躍動感あふれる色彩と画面構成は、そこに集う人々の声や賑やかなお囃子がきこえてくるような力強い作品です。

■朝日新聞社賞

「やすらぎ」
木村遥菜(きむらはるな)
やすらぎ
しっかりした個々の描写と安定感のある画面構成。何の物語でしょうか。夢 … それとも現(うつつ)。物語の世界につつまれた作者の想いが良く表現された作品です。

■埼玉県美術家協会会長賞

「呼ぶ声」
野邊ひろみ(のべひろみ)
呼ぶ声
丹念に描き込まれた渋い色調の画面は、おさえた色彩の植物とモノクロームの人物で構成されており、作者の想いが凝縮されています。
何げない日常の静かな時間、だれの声が、何の声が聞こえてくるのでしょうか。経験と力量に裏打ちされた良い作品です。

■高田誠記念賞

「音信(たより)」
加藤佳津枝(かとうかづえ)
音信(たより)
人物を中心とした個々のモチーフが、しっかりしたデッサンに裏打ちされており、人物とそれをとりまく作者の想いが込められた空間、明るくやわらかな色彩と構成が魅力の作品です。

ページの先頭へ第2部「洋画」

審査主任 柏 健(かしわたけし)
第68回県展は一般、会員を合わせた搬入点数が1,215点で昨年より33点少なく、入選点数は530点でした。入選率は43.6%、昨年は42.4%でしたので少し上がりました。県展は非常に入選するのが厳しい公募展だと思います。全体としてレベルの高い作品が多くありました。
搬入の時から一種の熱気を感じておりましたが、審査で作品を見て、その感を深くしました。
多様な表現の中で写真をそのまま引き伸ばして描いたような作品も散見しましたが、写真は単眼であり、絵画は人間の両眼が基盤になっているので、その基盤をつくるための訓練をすることが必要です。いわゆるデッサンの勉強です。それにはデッサンの勉強をした人に指導してもらうことです。そうすれば、膨大に費やされたエネルギーが有効に活かされるはずだとの思いを強くしました。
厳正な審査を経た入選者の中に二名の高校生が入ったことを付記します。

■埼玉県知事賞

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「蒼赫林林図(そうかくりんりんず)」
半山修平(はんやましゅうへい)
蒼赫林林図(そうかくりんりんず)
この作品の魅力は観る人に絵画としての強いインパクトを与える表現にあると思います。
植物の葉の集積をモチーフとしておりますが、葉の形はかなり写実的で、色は緑ではなく、赤と青と紫で周囲は白です。写実的で具体的な要素と抽象的な要素が同存化し、方向が異なる葉の動きが画面に動勢を与え歯切れの良い表現となっており、複雑にコラージュされ、その上に彩色された断片がその表現を支えております。

■埼玉県議会議長賞

「Red Hopper」
五味至(ごみいたる)
Red Hopper
恐らく実際には置けない位置に配置された物たちの不思議な出合いや危うさを感じさせる力強い作品です。赤く塗られた枝、ボール、木組みなどもそれらの緊張感をより引き立てています。不自然さや不思議さの中に、しっかりと描かれる立体感や奥行など実在感が感じられます。よく見ると、作者の細かい筆致で根気強く表そうとする努力が感じられます。今後は構図の整理や、描き方の工夫でより深みのある表現を期待します。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「片岩」
小田昇(おだのぼる)
片岩
一億年前、秩父が海底にあった時にできた岩。その後の大きな変動を経て、今ここに静かに横たわっています。色をギリギリまで落とした厳しさの中に、作者の長瀞への強い郷土愛が感じられます。何万年もほとんど不動の岩の上で一瞬を生きる鳥をポイントに配して効果を上げています。岩の角の鋭さも適切です。
水面にゆったりとした「瀞」の流れを感じさせるとさらに良いと思います。

■埼玉県美術家協会賞

「追憶」
新井友江(あらいともえ)
追憶
画面の右下にビンをのせた静物を描き、背面の壁面を広くとらえた構図でバランスが見事に描写された作品です。特にオレンジ色の板と白のビンが全体を引き締め、作者のセンスが感じられます。更に、たて掛けてある稲穂も効果的で女性の豊かな感情がうかがえる秀作で、手慣れた腕前の力量をこれからも続けて発揮されることを期待しています。

■埼玉県美術家協会賞

「限界漁港-Ⅱ」
蛎久紀元(かきひさのりゆき)
限界漁港-Ⅱ
「限界漁港」とは聞き慣れない語ですが、高齢化、過疎化によって漁港本来の活気ある状態が維持できないという現状を表す題名なのでしょう。
作品は、それを声高に訴えるのではなく、漁港への静かな想いひとつにイメージを絞り切ったことで成功しています。漁港周辺の細々とした事物のリアルな描写を捨て、やや素朴ともいえる表現で、単純に、淡々と描いたことが却って効果を上げています。

■埼玉県美術家協会賞

「寵妃」
高桑昌作(たかくわしょうさく)
寵妃
黒と白を基調としつつ、コラージュされた布の朱、金色などが装飾的に組み込まれています。黒には墨、鉛筆、ペンなどが用いられ、白には下地の紙の白、盛り上げ材の白が用いられることにより、素材の持つ表情の違いが幅広い表現につながっています。それらを様々な技法を統合した強い画面づくりと日本人形の妖しい存在感が、和洋相まった不可思議な世界を醸成させています。

■埼玉県美術家協会賞

「吐露」
永島実緒(ながしまみお)
吐露
少女が壊れた石膏像を手でつかみ何かを吐き出しています。少女の姿は暗い画面の中で、的確な描写力で手堅く描かれています。白いアリアスの像は俯瞰的に描写されています。
いったいこの少女は何をしているのでしょうか。それに対して口から吐き出した吐息はレース模様に蛍光色で描かれ、画面に大きな効果をもたらしています。
若い作者の多少奇異と感じる表現は他の出品作にも見られました。それが失敗しなかったのがこの作品の魅力でしょう。

■さいたま市長賞

「潰える '17」
橋本知子(はしもとともこ)
潰える '17
命のある能動的な植物と意志のない岩が、時に支え合い、時に戦い、やがてどちらもばらばらになり消えていきます。硬い岩をそれよりもずっと軟らかい根が割っていく様子が丁寧に描かれています。岩の色は特に美しく、そして自然です。また、構図も大胆で魅力的です。
右下の木と岩の位置関係(岩に潜り込んでいる根と岩から離れている根)を明確にするとさらに良いと思います。

■さいたま市議会議長賞

「風化」
岡野菊市(おかのきくいち)
風化
長年機関車をテーマに取り組んでいる中で、今年は線路脇の野花や雑草を排して、画面いっぱいストレートに古い機関車を穏やかな色調で描き出しています。それぞれ微妙に異なる風化した古い鉄の質感を巧みに描き分けることで、長い時の流れを感じさせる佳作となっています。
車輪と胴体の間の空間の扱いが曖昧なので、もう一工夫あれば一層しっかりした画面になると思います。

■さいたま市教育委員会教育長賞

「紙風船」
渡邉素子(わたなべもとこ)
紙風船
発想・構成・描写力の三拍子そろった、優れた作品です。
紙風船という、感傷に流れがちな題材を、ビリビリと破くことでリアリティを獲得するという発想。そして、ギリギリに抑えた色彩を、明暗の豊かな階調で引き立てる巧みな構成と、それを支える堅実な描写力。明暗は絵画の骨格であるということを、改めて感じさせてくれる作品です。

■NHKさいたま放送局賞

「室内静物」
城 眞知子(じょうまちこ)
室内静物
冬枯れの植物が丁寧に描かれ、全体を覆う柔らかな色調に作者の人柄が想像されます。
烏瓜に焦点がいくような背景の色の工夫、ガラステーブルの暗色にのる蔦や、ハンカチの上の木の実の配置など、よく計算された構図になりました。繊細な描写に好感が持てます。
画面の中心になる烏瓜の実を更に描き込むことで、見る者をひきつける作品に仕上がると思います。

■共同通信社賞

「水紋」
石井百合子(いしいゆりこ)
水紋
カワセミが飛び立つ一瞬の時を捉えて、まわりの木々を映す水面の波紋をきめ細やかに丹念に描きおこした作品です。抑制された品の良い緑の扱いが効果的で美しく、詩情豊かな趣きを強めています。水面の上の木々と投影された緑の分量に対して白い水面とのバランスが巧みで、自然から切り取られた形を造形的に構築して、静かな中にも力強い作品となっています。

■埼玉新聞社賞

「陽だまり」
山田泰樹(やまだたいき)
陽だまり
画面に対して対角線状に置かれた木馬、鏡、ランプ、植物、リボンなどのモチーフが画面いっぱい置かれ巧みに構成されています。作者の画面構成力の高さに感心しました。人形等の表現に多少未熟さを感じ、画面の汚れも多少気になりますが、それにも増してしっかりした表現が素晴らしく、素直な見方が魅力的です。作者のこれからの発展に期待します。

■産経新聞賞

「新緑の頃」
藤崎雅碩(ふじさきまさひろ)
新緑の頃
作者は恐らく現場でキャンバスを立てて、新緑の季節のすがすがしさや眩い光、色を肌で感じながら、一筆一筆しっかりと制作していったに違いありません。見る者にその臨場感がひしひしと伝わってきます。また、対象をしっかり捉え、それを確かめるように絵具を塗り重ねていくことにより、深みのある重厚な作品となっています。また、影の表現も、緑から青、紫への階調をうまく捉え、新緑の美しさをしっかりと描いています。

■テレビ埼玉賞

「雪が止んで」
斎藤一男(さいとうかずお)
雪が止んで
雪が止んだばかりの静寂さや冷たい空気感が見る者に伝わってきます。また、近景の轍のようなものから続く黒い橋、薄暗い木立、遠景へと徐々に霞んで、グレーの空へ透け込む風景が緻密に描かれています。筆跡は見られず恐らくナイフで絵具を塗り重ねて描いていると思われます。巧みな表現で、形をきっちりと表しています。今後は捉え方の変化や表現の方法を工夫し、作品により深みが増してくることを期待します。

■毎日新聞社賞

「郷愁」
髙橋孝(たかはしたかし)
郷愁
連立する秋の雑木林を達者な水彩のタッチで素敵に表現しています。特にモミジと思われる朱色や黄色の葉などを“面”で捉えた筆致は見事です。全体的に樹木が多いように思われますが、メリハリが良く上手に処理されている秀作です。画面右下の細い道が画面構成上効果的であり、今後も更に期待しています。

■埼玉県美術家協会会長賞

「光の種」
中島伸一(なかじましんいち)
光の種
具体的な物を使い、それらを時には抽象的な形に変形させ、ある物には軽く量感を持たせたり、画面に凹凸を取り入れたりしています。背景は白の面積を多くして、画面全体の様相には多分に平面性を感じさせる画面構成となっています。特に、白い背景に用いられている無機的な線が画面の中で有効に働いている清楚な感じのする品格のある作品です。

■高田誠記念賞

「やさしい思ひ出」
山本智之(やまもとともゆき)
やさしい思ひ出
作品の全体としての印象は夕焼けの懐かしい情景です。画面は非常に丁寧に作られていますが、特に電車の塗料の部分の錆びたところはそれを感じさせられます。
女の子の顔が半分、地平線近くから斜になり、のぞいている眼もこの雰囲気を醸し出す効果を担っていて、月も少し見え作者のデリケートな感覚が感じられる秀作です。

ページの先頭へ第3部「彫刻」

審査主任 清水正捷(しみずまさかつ)
第68回県展、本年度の彫刻部門では、出品数は減少しましたが、力作は多く、作品を前に様々な感銘を受けました。若い人の作品の大胆な制作手法、年配の方の誠実な制作態度、等々です。年齢幅が広がったこともあり、材料も制作方法も様々です。演出・見せ方等を意識した作品は当然高い評価を得ていることになります。
彫刻も制作する場所や材料のこと、時間的な制約など困難さはいろいろです。お互い、何のために作るのか、誰のために創るのかなど、様々な壁に向き合いながら、正解はないかも知れないけれど、それぞれがそれぞれの答を模索しながら、当たり前ではない「平和な時間と空間(戦争することなどのないこと)と自分に与えられた時間と空間(その空間に生きていられること)」などがあることに感謝し、造り続けていきたいと思っています。
素材や大きさ、重量等ほとんど問題はありませんでしたが、ごく少数ですが陳列に耐えられるかどうか心配のある作品がありました。少なくとも安全性・安定性の問題が生じない作品を“是非・是非”出品していただきたいというのが審査員一同の切なる思いです。

■埼玉県知事賞

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「祭りの夢」
阿部昌義(あべまさよし)
祭りの夢
祭りの夜店で売られている笛をくわえた愛らしい子供の頭部と手を組み合わせた極めて完成度の高い木彫作品です。
彫刻作品では台座を含めた雰囲気すべてを一つの作品とみなします。作者はこのことを十分考えて作品を完成させる極めて高い彫刻表現技量の持ち主であると思います。したがって本作品が最高賞に値すると審査員一同が一致した意見です。今後の県展彫刻部でのご活躍を期待しております。

■埼玉県議会議長賞

「高天原の羽衣兎」
岡田杏(おかだきょう)
高天原の羽衣兎
羽衣をまとい杖を携えた兎の化身、開いた本、日本の神話を想像させる陶の作品です。眼球や羽衣に塗られてある釉薬(ゆうやく)の赤や目の詰まった陶土の肌感から還元焼成で本焼きをおこなっていることが窺えます。焼き物の彫刻の場合、高温での焼成はそれなりのリスクが生じます。ましてや等身大の立像としてはなおさらですが、この作品は、素材の割合や構造等を工夫し、立像として成立させている力作です。
作品のテーマ性や素材の面白さなど今後の展開が大いに期待できます。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「あ・の・ね」
和澄明子(わずみあきこ)
あ・の・ね
オーソドックスな裸婦像です。基本に忠実に、細部まで気を遣い丁寧に制作した作品だと思います。ポーズは、女性らしい優しい形で、タッチもそれに合った丸みのある女性らしさが感じられます。全体の調和が取れた作品です。

■埼玉県美術家協会賞

「悠」
神田麻紀(かんだまき)
悠
端正な形の中に、柔らかな曲線が心地よい空間を表現し、やさしさを感じさせる作品に仕上がっているように思います。
また、作品の木の色と台座の石の色が違和感なく調和されていると感じます。

■埼玉県美術家協会賞

「萌芽」
中澤庸江(なかざわのぶえ)
萌芽
はじめ、材質はなんだろうと思いました。陶芸用の土と聞いてさらに驚きました。手慣れた手法で伸び伸びと制作されていることが窺えます。ここから力強く芽生えんとする内に秘めた魂のようなものを感じます。

■NHKさいたま放送局賞

「蟻」
高松彩華(たかまつあやか)
蟻
17歳の女子とは思えぬほどの計算された構成で全体を組み立てた力強さを感じさせるとともに斬新な形で、作者の製作意図が伝わって来る作品だと思います。次回も楽しみにしております。

■埼玉県美術家協会会長賞

「深い海に生る」
市之瀬宜久(いちのせよしひさ)
深い海に生る
深い海で生きるにはこの形が必要なのかと思わせる乳房を担いだような異形の生物が深海で浮遊している。一方、ブロンズの重量感が無機的にも感じられ、全く海底で動かないのか。とすればなお一層不気味で悪い夢を見ているような。想像が次から次に膨らむ幻想的な面白い作品だと思います。

■高田誠記念賞

「Kaimana」
清水啓一郎(しみずけいいちろう)
Kaimana
ハワイのビーチの名前が作品名になっている鯨の尾をモチーフにした御影石の作品です。その尾には波の文様が彫られており、尾だけで鯨全体の大きさや海までを想像させられ、空間をも作品に取り込む彫刻ならではの醍醐味があります。
石を素材として扱うことは大変な労力と技術が必要になります。ましてやこのような大きな作品となればなおさらです。埼玉県展の委嘱作家として出品されましたが、今後もそのような力作で見る者を魅了し続けてほしいと思います。

ページの先頭へ第4部「工芸」

審査主任 西 由三(にしゆうぞう)
工芸部門の出品作品は全343点、運営委員・審査員・招待・委嘱を除く審査対象作品、一般185点、会員113点、計298点であり、昨年と比べて微減ながら、ほぼ変わらず推移しております。中でも、一般は作品数が減少したものの、逆に出品者数は微増しており、複数点制作することが難しい事を鑑(かんが)みれば寧(むし)ろ喜ばしい事で、県民に広く工芸の楽しさ、手を動かし、物を造る喜びが浸透している証しと見る事も出来るでしょう。
しかしながら昨年に引き続き、工芸部門では、大作・力作といった作品が減って来た様な気がします。それに引き替え小ぢんまりまとまった物や組皿等が増えた様です。それが悪い事ではありませんが、年に一度の展覧会、是非力一杯暴れて頂きたいと思います。そこに技術や観察力、感性がついてくれば申し分ありません。次回展での飛躍を期待いたします。

■埼玉県知事賞

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「欅波状杢拭き漆小物入れ」
小川辰夫(おがわたつお)
欅波状杢拭き漆小物入れ
欅材の波状杢(はじょうもく)と呼ばれる模様を用いて、天板と前板の引き出し部分を構成し、深みと透明感のある拭き漆で仕上げる事により、杢目(もくめ)の美しさを強調しています。
天板の下部分を斜めに切り込みを入れる事により、水平方向に広がりを感じさせており、垂直方向は4本の脚を丸くする事で、形状のバランスがよくなっています。単調さを避けるため、取手部分は黒柿をアクセントとして用いる事により、作品全体に心地良さを感じさせる力作に仕上がっています。

■埼玉県議会議長賞

「爽」
長谷川千嘉(はせがわちか)
爽
透かしの入った夏物生地に、蜘蛛絞りと、板締め絞りを併用した浴衣です。
絞りでできる藍の濃淡が更に清涼感を増して年齢を問わずお召しになれると思います。
非常に難しい作業ですが丁寧で心のこもった制作態度が感じられる秀作です。
これからも期待しております。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「カバ先生」
隈井純子(くまいじゅんこ)
カバ先生
金属の板を金鎚等で叩き変形させる事で造形を行う鍛金(たんきん)と言う技法で造られたカバの置物です。地金は銅板を用い、幾度も焼き鈍(なま)しを繰り返しながら形造っていく、変形絞りの秀作です。
ユーモラスなカバの表情を丹念に打ち出し、元々が一枚の板であった事を思わせない技量を持っています。
しっかりとした造形力で表現したリアリティさと、自身のイメージで擬人化されたカバの表情が見る者の目を引き付ける要因と言えるでしょう。黄銅(真鍮)で造られた鼻眼鏡が題名を端的に表し、亦良いアクセントとなっています。背の高い木製(外国産材でしょうか)の台に取り付けているところに作者のデザインセンスを感じさせます。
次回、更なる力作を期待致します。

■埼玉県美術家協会賞

「乾漆『時の流れ』」
大上京子(おおうえきょうこ)
乾漆『時の流れ』
この作品は麻布を何枚も漆で塗り固める乾漆(かんしつ)という技法で作られています。
外側は金泥(金属粉を漆で溶いて塗った物)の上に溜透漆を程好く塗り、夕空を現し、黒漆等で山並みを表現しています。
内側には卵殻や螺鈿等で、底面には箔の微塵を蒔いて奥行きの有る夜景を表現しています。
希望をいえば蓋をつけた器にして、開けた時のドラマチックな演出が出来たらもう一段階上の作品になったと思います。

■埼玉県美術家協会賞

「彩泥波状文器」
髙橋司郎(たかはししろう)
彩泥波状文器
黒い端正な、高さと、口径とのバランスの良い形に、ロクロ成形された美しい作品です。ロクロ成形に日頃の修練が感じられます。
その表面に、彩泥という手法によりあらわされた、白い線条の波文が、器面のほぼ全体をバランス良く精密に分割し、心地良い仕上がりになっています。
白い土でロクロ成形された器体を素焼にした後に、巾0.5mm~1mmのテープを波状に貼りつけます。大変神経を使う仕事です。テープを接着剤で貼りますが、素焼は接着剤が付きにくいので接着剤の選定には苦労されたようです。また塗り方にも独特の技術が必要で、この仕事の最重要なポイントです。波文のテープを貼って黒い化粧泥を吹付け、その後テープをはがし、窯に入れ、弱い環元で焼成しています。
あらためまして、黒い化粧土と、白い細い波文のコントラストと、形の美しさの素晴らしい作品です。

■埼玉県美術家協会賞

「ねぎぼうず」
谷地田美津子(やちだみつこ)
ねぎぼうず
ねぎぼうずの過去、現在、未来を思わせるような藍色を基調にしたタピストリーです。実に見事な現在のねぎぼうずは生き生きと自分を主張して金箔をまとって自信に満ちています。未来の方は発展途上を表すごとく背景を銀箔にして藍の濃淡を適度に入れて作者の長年の制作における磨きあげられた力量を感じました。素晴らしい秀作です。

■読売新聞社賞

「鶏冠花器」
榮 一男(さかえかずお)
鶏冠花器
艶かしい口縁部とは対称的にエッジの流れるラインと底を絞った形はとても美しいです。
実はこのような造形的な形のベースはロクロ成形によるものであります。
内側には白色の釉が施されている反面、外側は焼き締めることでより造形が引き立っています。
作者の造形力を感じさせる秀作です。

■埼玉県美術家協会会長賞

「花菖蒲」
荒舩絹子(あらふねきぬこ)
花菖蒲
木彫布木目込みという技法による人形です。
桐の木を頭、手、足、胴と別々に彫り、胡粉を塗ったりみがいたりを繰り返して、形をととのえます。顔と髪の毛は薄墨で一本ずつ描き重ねて目的の濃さにします。胴体は布を木目込んで、別々に仕上げた各部を組み合わせて仕上げます。
若い女性が五月晴れの日にパラソルを手に出掛けようとする瞬間をとらえたもので、爽やかな風が吹き抜けるようなすがすがしさが感じられます。

■高田誠記念賞

「風環層晶」
森田高正(もりたたかまさ)
風環層晶
一見、力強いオブジェ(立体造形物)に思われますが蓋があることで、れっきとした器になります。作者は造形物と器の関係を明確にしながらも新しい観点で制作されています。
作品を印象付ける黒色の土肌は、赤土を炭化焼成することにより、土に含まれる鉄成分と炭素が反応し合い黒い深みのある質感を作り出しています。また表面の化粧土のグラデーションによる波文様は形と強調し合いより強い造形を生み出しております。さらなる展開を期待できる秀作です。

ページの先頭へ第5部「書」

審査主任 関根松篁(せきねしょうこう)
第68回展の一般・会員の出品点数は451点で、前回展より7点減少しました。近年、出品点数は減少傾向にあります。
入選数は273点であり、率にして60.5%の入選率となりました。出品者は、ほぼ県下全域よりあり、作品の内容は漢字、仮名、近代詩文、篆刻等で力強く充実していました。そして書風もバラエティーに富んだ作品が多く見られました。出品者年齢層も、15歳から90歳と幅広い層に及び、中でも女性の出品が多くありました。
鑑審査、審査は一層の厳正、公平を期するため三次に亘って行いました。厳選の中最後まで残った10作品を特選に決定しました。そして、それぞれの作品を吟味し各賞を配分しました。
入賞作品の選定にあたり非常に残念なのが誤字、脱字です。心して作品制作にあたっていただきたいと思います。
今後は書技術の鍛錬と共に、より高度な美の表現を追及し、古典を踏まえ個性豊かな躍動感のある優雅な作品制作に心がけてください。

■埼玉県知事賞

※受賞作品をクリックしますと拡大画像が表示されます。
「韓翃詩(かんこうし」
土屋千秋(つちやせんしゅう)
韓翃詩(かんこうし
力動感溢れる大胆な作品です。書き出しはちょっと細目に、軽味を帯びています。書き進む毎に全体にとても変化に富み、特に文字の大小、字形の自然な傾きが、ゆったりと、リラックスした雰囲気を醸し出しています。
線のタッチを見ると、とても鋭く、紙面に切って入るかのような強さと勢いがあり、これが、息の長い質の醸成へとつながっていると考えられます。格調の高い作品に敬意を表します。

■埼玉県議会議長賞

「顧夐詩(こけいし)」
増尾龍泉(ますおりゅうせん)
顧夐詩(こけいし)
隷書体を用いて現代の息吹きを感じさせるモダンな作品に仕上げました。字間を広くとり字形を大胆に平らにしていますが、細みの書線に躍動感があり窮屈さがありません。文字の書いていない白の部分も書作品の大事な点ですが、その白が冴えて見えるのは、書線が生き生きしているからでありましょう。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「菅茶山詩(かんちゃざんし)」
齋藤青穂(さいとうせいすい)
菅茶山詩(かんちゃざんし)
大胆で伸びやかな七言絶句28字の行草作品。書出しの「雪」から躍動感が紙面に表現され、穂先の利いた細い鋭い線と縦長に構えた字形でぐいぐいと書き進む運筆が魅力的です。渇筆が散見されますが、粘り強い運筆で潤渇を明確にし、終画の斜めの点や線がリズム感を醸し出しています。技術的に高度な作品です。

■埼玉県美術家協会賞

「李白詩」
大仲錦翠(おおなかきんすい)
李白詩
4行・80文字を、墨量がたっぷりとして潤渇も美しく、特に、かすれている文字が、適当にアクセントになって良いと思います。
 真面目で丁寧に書き込んだ作は、誠実さが滲み出ていて好感度抜群な佳作。遅連緩急を工夫されると作風も一段ハイレベルとなると思います。

■埼玉県美術家協会賞

「張祜詩(ちょうこし)」
大室紅玉(おおむろこうぎょく)
張祜詩(ちょうこし)
内在する精神の躍動に経験豊富な実力と、長鋒(ちょうほう)をうまく利用し、頑健(がんけん)で、粘りのある重厚な線質は規模も大で、気力充実の作品と見受けられます。それに加え連線体の構成もよく考えられている様子。これを励みにますますのご活躍を希望します。

■埼玉県美術家協会賞

「寒山詩」
平岡東澤(ひらおかとうたく)
寒山詩
県議会議長賞増田氏の隷書が現代を写すとしたら、平岡氏のこの隷書は、時がゆっくりと流れていた古の時代を彷彿とさせる伸びやかな作品といえます。懐の広い構えと気負いのない書線で安定感のある作となりました。隷書の基本をしっかり学んだのちに表出した率意の書と思います。

■さいたま市長賞

「早秋山居」
柿谷響可(かきたにきょうか)
早秋山居
筆よく食い込み、強い筆法で書き連ね、しかもスッキリとした自然体で、五言律詩を気負いのない魅力ある作品に仕上げた心地良いものとなりました。今後もこの書風を生かし、後進の指導に精を出して頂くことを望みます。

■さいたま市議会議長賞

「ふかくさの」
太田珠穂(おおたしゅすい)
ふかくさの
今回は細字かなが特選に選出されました。金塊和歌集を流麗に、細い線と強い線を上手く調和させています。リズム感の良い構成で古典をふまえた、てらいのない作品で鑑賞者にも、落ち着いたかなの美しさを感じさせてくれる作品になりました。

■テレビ埼玉賞

「唐詩二首」
大澤美峡(おおさわびきょう)
唐詩二首
五言律詩二種、八十字を終始一貫、気力充実して書き上げました。濃墨で潤渇のバランスのよい単体作。自然な文字の大小のリズムが絶妙です。
行の振幅が程よく縦の流れとなり、筆圧の変化を充分に意識しながら、巧みに書き進めた作者の書技の鍛度の高さと気迫を感じました。気骨を蔵し、風格が見える堂々たる出来栄えです。

■東京新聞賞

「鳳凰于飛(ほうおううひ)」
安藤芳月(あんどうほうげつ)
鳳凰于飛(ほうおううひ)
篆刻に三法あり。具体的には字法、刀法、章法のことですが、この四文字白文の作品はどれも感心させられます。正確な字形、力強い刀法が全体に落着きを与え、見る者をして魅力を感じさせています。そして、何よりも対角線に布字された疎密は絶妙なバランス。輪郭も作為的な雅味がなく自然な方寸の世界が表現されています。

■埼玉県美術家協会会長賞

「李商隠詩」
加藤玲香(かとうれいこう)
李商隠詩
敢えて書線に抑揚をつけず、直線で文字を構築したことで、都会の香りのする明るい隷書作になりました。墨量の変化もあり、一文字の中に細い線が混じることにより文字の中の白が輝き、全体の変化にも良い効果を与えています。各々の文字が響き合い、現代に相応しい魅力ある作と思います。

■高田誠記念賞

「漱石詩」
奥富霞村(おくとみかそん)
漱石詩
淡墨で、規模雄大、懐の広さを感じさせる作品です。ゆったりとした構えでありながらメリハリの利いた点画は、観る者を爽快な世界に引き込んでくれます。よく観察してみると、上部に比較的大字形が並び、それが、観る者の眼を引きつける一方、下部には、変化のある字形で、豊かな動きのある表現を試みると同時に、行の流れの作成が巧みで、とても安心感のある良い作品です。

ページの先頭へ第6部「写真」

審査主任 森山常久(もりやまつねひさ)
68回展の出品は、20点増え、総数1,325点、入選点数456点、入選率は34.4%でした。2点・3点出品者も多数いらっしゃり、県展への熱意を感じます。また、マットパネル使用方法を示したチラシを同封した効果なのでしょうか。搬入時にパネル等の不備も少なくなり、スムーズに受付を行うことができました。開催要項に沿って出品いただきましたことに深く感謝申し上げます。
審査は、9人の審査員により、4次審査まで投票を行い、賞決めまで厳正に行いました。今後も、高性能になるカメラと、身近になるデジタル編集により、写真を趣味にして、いろいろな場面で撮影し、そのことをずっと楽しみにしていただきたいと思います。また、切り取られた画面から、時代に合った、見る人のイメージを膨らませ、見る人に何かを思い起こさせる写真が次回展も数多く出品されることを期待します。

■埼玉県知事賞

※受賞作品をクリックしますと拡大画像が表示されます。
「佇む」
伊藤春子(いとうはるこ)
佇む
スナップ写真なのでしょうが自身を投影させての「佇む」に昇華させ、画面に映りこむ全ての物の色合いと質感がそれを強く意識させ、登場人物の目線を見せないことで、写真を見る側からだけの視線で誘導し作者の心象をも感じさせてくれます。スナップ写真だからこその強さと良さが出たと思います。秀逸な作品です。

■埼玉県議会議長賞

「記憶の底」
金子政喜(かねこまさき)
記憶の底
最初から意識を確立させた難しいジャンルの心象風景です。心象風景の写真は、見る人に伝わらない事の方が多いと思います。この作品は画面上の白の線を奥に手前に横に写しこみ、光と影を左右の写真に配置したシンプルな画面構成が効いています。
記憶らしき物を、その果てまでを考えさせた結果、作者の意図を間違いなく感じさせてくれました。じっと見つめる人が浮かんで来る、自身の記憶の底を感じてもらえる作品だと高く評価します。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「川原の演奏会」
岡地英男(おかちひでお)
川原の演奏会
何でもない川原の草を、こんな風に写真に出来るんだと思わず見入ってしまう素晴らしさを感じました。モノクロにする事で画面上の情報量を少なくして、歌う草達(だと思います)を画面一杯に写しダミ声やソプラノが聞こえて来るようです。何よりも楽しんで此処でシャッターを押している作者が見える事が一番の評価です。

■埼玉県美術家協会賞

「照臨」
石川民男(いしかわたみお)
照臨
広々とした空間風景の中に、ある時間、ある光を自意識の中に描きハンターの様にじっと待ち、待った甲斐が写真に出るのか、否か。意識と合致した時の至福の喜びが写真に閉じ込められるか。思考錯誤の繰り返しなのでしょう。
この3枚には見えます。計算できない光の中で変わって見えていくモノたち、刻々と変わる空と雲の色、それらの意識の中に止めた事を。
何よりも空間が照臨に壊されていない事が好評価に繋がりました。

■埼玉県美術家協会賞

「隠れる帽子」
入江一男(いりえかずお)
隠れる帽子
大きな帽子で顔が隠れて、ということでしょうか。その事で少女の心が映し出されて来たようです。遠く先の光のボケが写真全体の奥行感、色調、切り取りの確かさ、それらも相まって少女の心を更に増幅させて見せてくれます。写真にすることが上手い作者だと感じました。

■埼玉県美術家協会賞

「神域」
志村祐夫(しむらすけお)
神域
神社の境内でしょうか、この場の独特の空気を描き出す事に主眼を置き、白と赤と緑の色を各写真に大胆に配置して、1枚目の白を導入部とし2枚目の赤を大きく使い、3枚目の緑を色だけを流して完璧に神域の空気を描き出しています。コンセプトを事前にキッチリと思い描いての作品作り、それをきっちり成功させたことを、神業のようだと賞賛します。

■埼玉県美術家協会賞

「しじまの中で・VENEZIA」
友清和親(ともきよかずちか)
しじまの中で・VENEZIA
夜半VENEZIAという町を写し歩く作者のおかしみが伝わって来るようです。シビアな映像の中になぜか、一枚一枚の写真はシャープに切り取られ色調も他国の色を感じさせ「しじま」という空気をも、キチンと見せてくれます。雨の中の抱擁のようなカットがホッコリさせて、そんなおかしみを感じさせているのかも。達者な作品と言えるでしょう。見応えのある作品です。

■さいたま市長賞

「爆進」
花田寛子(はなだひろこ)
爆進
ばんえい競馬のワンシーンでしょうか、鮮やかにきれいに描き、躍動感を更に強調した画作り幻想の世界に、作品を見る人を引き込ませるような仕上げになっています。後処理の大事さが成功した傑作だと思います。もちろんシャッターを落とした時の感動がそれらをつなげる事になるのですが。

■さいたま市教育委員会教育長賞

「職人魂」
張替政雄(はりかえまさお)
職人魂
暗めのトーンにして作り出される物の質感をキチンと描写し、人の動きを的確に処理しています。それが3枚目の無人の光るモノたちへ視線を落とす導入となっています。その絵作りが作品を見る人に伝わり、3枚の写真を使って、見る人をも動かす事が出来ていると思います。完成度の高い作品だと思います。

■埼玉新聞社賞

「郷愁」
安齋悦江(あんざいよしえ)
郷愁
デジタルの絵作りだからこその、増幅された郷愁、柿の絶妙な色合い、黄昏時の全体の色調が登場人物の郷愁を感じさせ、動きと郷愁のオンパレードなのですが決してくどくならず、全てが一つの方向に統一されて動いているからなのでしょう。とても見やすく心地よく、見る人の郷愁を、喚起させてくれます。

■時事通信社賞

「記念日」
稲村泉(いなむらいずみ)
記念日
街角のポスターなどが、題材でしょうか。(違ってたら、ごめんなさい。)だから凄い写真だと評価しました。当然トーンはなくなり、往年のモノクロフィルムの色合いを醸し出しての色調、一枚一枚の意味ありげな形、およそ記念日という言葉の概念とは相容れない、作者だけの記念日につながっているという事で完結している意味での秀作だと考えます。

■FM NACK5賞

「笑顔で巣立ち」
戸田利一(とだとしかず)
笑顔で巣立ち
とにかく何の注釈もいらない、可愛いの一言だけで、言い切ってしまう作品です。画面上で可愛さを作り出しているもの、少し斜めにしている梟の2つの赤子、表情、それに何と言っても上部にある出来すぎのような、赤の花びら(だと思います)、周りの色合い、奥行のレンズ特有のボケミ。楽しく可愛い作品です。

■埼玉県美術家協会会長賞

「東京ベイ」
根本美津江(ねもとみつえ)
東京ベイ
夜の京浜地帯。都市の建造物が佇みそこに流れるライト、それを包み込むような海面、特に真ん中の光の小船。写真の持つ対象物にゆだねる事でのみ表現される映像世界です。写真になりにくい場所ほどそれが出て来るものです。成功だと思います。
ベテランの非凡さを感じさせる作品です。

■高田誠記念賞

「凍てつく町」
齋藤英雄(さいとうひでお)
凍てつく町
今そこにある美、映像に起こさなくても、十二分に美が完成されている場であえて写真にする行為、これは本当に難しいのですが、さすがにベテランの本領発揮です。対象物の選定、一番きれいに映る時間を見事に切り取った空間処理。一つでも間違えると、きりっと見えなくなるのですが、キチンと映像に起こし、美を完成させた作品です。