2017年県展受賞作品


第67回(2017年)埼玉県美術展覧会受賞作品と審査評

ページの先頭へ第1部「日本画」

審査主任 石原 進(いしはらすすむ)
本年度、日本画部門の一般、会員出品点数は199点、昨年度に比べ若干の減少となりましたが、大作が揃い県展への意気込みと質の向上に安堵しました。鑑査及び審査にあたり、一審、二審、三審と厳正に審査を行い、137点の入選を決めました。入選率は68.8%でした。入賞作品については、候補となった作品を列挙の上、投票やディスカッションを重ねて、各賞8点を決めました。紙一重の差でもれた作品も多く、誠に残念です。
全体を通して、年齢16歳から88歳と幅広い年齢層からの作品は、多種多様であり、中でも創作意欲に溢れる若い世代の自由な作品が見られました。県展の明るい兆しを感じながらも伝統を踏まえた新しい作品を期待します。入選入賞された方、今回残念ながらもれた方も含め、次回の出品に向かって大いに精進されることを希望いたしております。

■埼玉県知事賞

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「オミヤゲ」
今井美晴(いまいみはる)
オミヤゲ
何処の夜店であろうか、夜店を囲んでオミヤゲを買う人々の語らいが聞こえてくるようで、暖かい色調、そして光の表現が美しく、人物が生き生きと描かれている、秀作です。

■埼玉県議会議長賞

「パーティー」
野口裕子(のぐちひろこ)
パーティー
構成が秀逸です。落ち着いた女性の表情と光の屈折や分散するテーブル上の赤や青緑色などの対比が美しく、パーティーの雰囲気が良く表現された好感の持てる作品となりました。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「冬の始まり」
倉持政江(くらもちまさえ)
冬の始まり
描きたいものを切り取って大きく配置しています。色彩の微妙な変化で「もの」を描き分ける表現力は格調高い精神性を秘めた佳作です。

■埼玉県美術家協会賞

「颯韻(ふういん)」
鈴木隆一(すずきたかかず)
颯韻(ふういん)
川辺に寄り添う水草に背景の冬景色が、より寒々しい印象を醸し出しています。非常に好作です。

■埼玉県美術家協会賞

「ささら獅子」
田島明美(たじまあけみ)
ささら獅子
民芸ささら獅子舞の躍動感が伝わる素晴らしい作品です。紫色が効果的で小太鼓の音が今にも聞こえてくるようです。神事が伝わってきます。

■NHKさいたま放送局賞

「樹氷の朝」
森下博子(もりしたひろこ)
樹氷の朝
朝の太陽が、木々の姿を雪原に移し込んでいます。清々しい一日の始まりを樹氷を通して一層新鮮に見せている優作です。

■埼玉県美術家協会会長賞

「遠まわり」
島村良子(しまむらりょうこ)
遠まわり
画面いっぱいに緑を配し、その隙間から見える空の白、人物が効果的な美しい表現となっています。丹念に描き込まれた素晴らしい作品です。

■高田誠記念賞

「トロイメライ」
加藤佳津枝(かとうかづえ)
トロイメライ
柔らかい色彩で構成され、それぞれの役割に無駄がない素晴らしい作品です。横向きの頭や折った指の表現からメロディが聞こえてくるような気がします。とても癒される作品です。

ページの先頭へ第2部「洋画」

審査主任 山本耕造(やまもとこうぞう)
第67回県展は1,248点の応募があり、厳正な審査の結果530点が入選、入選率は42.5%となりました。昨年度が39.8%でしたので数字から見れば入選が緩くなったように思われがちですが、レベルは非常に高い印象を持ちました。高校生から年配の方まで幅広い年齢層から応募があり、作品の傾向はバラエティーに富んでいますが、パワーと感性のみずみずしさに世代の差は全く感じませんでした。
近年、絵画表現のバリエーションが広がってきており、物を見て描く伝統的な具象絵画が中心をなしてはいますが、対象の再現よりもイメージを形にしようと試みている作品が着実に増えてきています。表現媒体も多様で、油彩、アクリル、異なる複数の素材を使ったミクストメディアを自在に使いこなし、洋画=油彩という概念からの開放を感じます。
入選作品や受賞作品は各々の表現において充分な力量を発揮し、説得力のある画面を構成して見ごたえのある粒ぞろいの作品が揃いました。
残念ながら選外となった作品の中にも、色、形、構成、メッセージ力において、絵としての面白さが感じられる魅力的な作品がたくさんありました。入選作品と紙一重の作品が多かったと思います。来年度の挑戦を期待します。
今回、キャンバスの張りがゆるくて表面がゆらゆらと揺れていたり画面に大きなしわがある作品が意外に多く見受けられ、これらはとても気になりました。そのような画面ではせっかくの作品の魅力がそがれてしまいます。絵を描く以前の問題として注意してください。ピシッと張ったキャンバスに描くと気持ち良いものです。

■埼玉県知事賞

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「牛舎にて」
鈴木精一(すずきせいいち)
牛舎にて
かわいい子牛は、眼差しがやさしく、鑑賞者を見つめています。画面からよちよち出てきそうな錯覚を覚えます。モノクロームに近い画面ですが、牛の黒と白のバランスや、表情、牛舎の色が調和し、うまくまとまっています。牛舎の空間がマチエールの工夫で美しく表現されていて、静寂の中に生命力を感じる爽やかな作品になっています。素朴な優しさが伝わってきます。

■埼玉県議会議長賞

「時間の海」
永本秀男(ながもとひでお)
時間の海
圧倒的な力強さを感じ、多彩な描き方で見る人の心を引き付け、画面の中に引き込む力のある秀作です。特に全体のマチエールが素晴らしく、描き方も全くの自由で絵具、パステル、チョーク等いろいろで張り物もあり、50号の作品でこれだけの迫力が出せることに感心いたします。ただし、少し多くの物が入りすぎて息苦しさを感じるところもあります。空間をもう少し上手に使うことも抽象作品には必ず必要ですので、今後の課題にしていただけたらと思います。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「四季」
池田祝子(いけだのりこ)
四季
色彩がとても美しい作品です。画面構成もしっかりしていて描写も的確です。蓮池に生息する生物の生態を良く描いています。左隅のサギや、画面の右上のツバメ等の表現にやや難点はありますが、生物への優しさが画面から溢れて出ています。澄んだ色彩が光り、心温まる素敵な絵です。

■埼玉県美術家協会賞

「forte Ⅱ」
大海順子(おおうみじゅんこ)
forte Ⅱ
コラージュと水彩絵具などを工夫し、有機質な物と無機質な物を同一画面上に対立させて構成を試みた点に共感を覚えます。画面の左隅がやや気になりますが力強い作品です。俯瞰した画面構成でまとめていますが、玉ねぎの描写がやや弱い点が残念に思いました。しかし、マチエールにいろいろと工夫の跡が見られ、油彩に負けない力作だと思います。

■埼玉県美術家協会賞

「春きらら」
岡 愛子(おかあいこ)
春きらら
ガーデンテラスのテーブルの上に丹精された庭の花を飾り、室内と外の庭の距離感が出ています。花、花瓶、テーブル、椅子などの材質が良く描けていて、画面の構成もしっかりして安定感があります。達者な筆使いはとても丁寧で、対象を良く表現しています。外の光が清々しい空気を運んできてくれるような感じのする良い作品です。

■埼玉県美術家協会賞

「招宴」
東条優美(とうじょうゆみ)
招宴
赤いテーブルクロスの上にいろいろなビンやグラスが配置されて、やや雑然とした構成の感がありますが、それぞれが一つ一つ繊細に質感も良く描かれています。こんなにたくさんの物を描いているのに嫌味がなく、とても楽しい作品となっています。前面の赤い色面(しきめん)が爽やかで、全体を支配しているのではないでしょうか。中央の皿の中の白いトランプも重要な画面構成の要素となっています。

■埼玉県美術家協会賞

「悠久の祈り」
永江咲紀子(ながえさきこ)
悠久の祈り
磨崖仏(まがいぶつ)がペインディングナイフと筆で作られた荒々しいマチエールの上に、あたかも作者が鑿(のみ)で彫っていくかのように心のこもった線で描き出されています。古い岩肌に差し込む光が、仏の顔と印を結んだ手を淡く優しく照らし出して心を和ませてくれます。画面の下方の暗部に色が生のまま残っているのが少し気になりますが、全体としては見事な作品に仕上がっています。

■さいたま市長賞

「野生のパワーⅢ」
髙橋よう子(たかはしようこ)
野生のパワーⅢ
画面中央に、大地に根を張り、力強く生きようとする植物を描いています。作品に激しい動きを感じます。遠景の山並みが空間の広がりと大地の大きさを感じさせています。色にも工夫、変化があり、中間色を見事に使いこなし、好感の持てる良い作品になっています。

■さいたま市議会議長賞

「心の旅」
岡野菊市(おかのきくいち)
心の旅
蒸気機関車は懐かしい乗り物です。この作者の描いた機関車の姿は堂々とした重量感があります。逞しい岩のようで、胴体のマチエールは風雪に耐えて長年働き続けてきた歴史を感じさせます。その胴体には大・中・小のさまざまな機具が備わりそれが軽快なリズムを生み出しています。SLは若い青年の姿に似ていてファンが多いことも承知していますが、作者も旅行をしては数々のSLを描いているのでしょうか。機関車が好きで仕方ないという気持ちが伝わってくるようです。大変に力強い作品で感銘を受けます。

■さいたま市教育委員会教育長賞

「夢路『明日香』石舞台:四」
佐藤伸二(さとうしんじ)
夢路『明日香』石舞台:四
作者は長くこのような曼荼羅をテーマに描き続け、永遠のテーマだと思われます。水彩だからこそ出来る精密な描き方で色も多彩で、線にも狂いがなく完璧な作品に仕上がっています。図案的な印象もありますが、現代的絵画として異色作品であり、圧倒的に光っていました。少し細かすぎる感もありますが、作者の狙いは、円の中の石舞台と平面化した空間処理との対比の異質感かもしれません。画面から力強いエネルギーが迫ってきます。

■共同通信社賞

「まなざし」
根岸亮子(ねぎしりょうこ)
まなざし
部屋の一隅に、足を崩して横座りしている白と薄いピンクの着衣の女性が、卓越した的確なタッチで軽やかに気持ちよく描かれています。顔や首、上半身の表現は確かなデッサン力が感じられる見事な表現です。影側に描いた紫の髪飾り、白いごく小さな耳飾りや手に持った2色の花などは雰囲気を作るのに効果的で作者のセンスが感じられます。
構成はとてもシンプルで潔さがあり、作者が描きたかったであろう存在感も十分出ています。膝の奥行きを出すと足が長く見え、さらに魅力的な作品になると思います。

■埼玉新聞社賞

「幸福のとなり」
坂本理絵(さかもとりえ)
幸福のとなり
5本の強い線が画面を的確に分割し、構成の強さを感じさせてくれます。庭の光の明るさと室内の暗さのドラマチックな対比が画面に圧倒的な効果をもたらしています。状況描写を超えた心象の世界を表現しているように感じられます。これからも描き続けてくれることを期待しています。

■産経新聞社賞

「かま土Ⅱ」
松田京子(まつだきょうこ)
かま土Ⅱ
郷愁を感じる古いかまどが、単純化された画面の中に構成されていて、作家が狙いとした斬新な空間を創り出しています。形にこだわらない、鍋、釜にわずかに残る鮮明な赤や、塗り重ね作られたマチエールも美しく、深みのある色彩に透明感を感じます。モノトーンを基調とした作品がより懐かしさを感じさせています。

■テレビ埼玉賞

「さざなみ」
森 香那海(もりかなみ)
さざなみ
「さざなみ」と題した作品ですが、画面は、水面の描写を超えた不可思議な世界を生み出しています。それがとても魅力です。石の配置、水紋の描写が、巧まずしてアンバランスなバランス、意図を超えた画面の妙味、構成力を生み出しています。それらは、何処から生まれてくるのか。恐らく、描き手の画面に対するひた向きさが生み出したのです。高校生活を終えて、これから先、描写や技術の向上を手に入れても、それだけでは生み出せないものが、ここに在るのです。そのことを忘れずに進んでいってほしいと深く思わせてくれる作品です。

■毎日新聞社賞

「雨あがる」
木村昇(きむらのぼる)
雨あがる
不透明水彩を使い達者な筆さばきで手馴れた作品です。特にバックのタッチはリズミカルで爽やかに感じられます。学生らしい若い女性がうす暗くなった雨の日、バス停でバスを待っていると思われる姿の表現は郷愁が漂っています。また、携帯を見ながら立っている様子は現代っ子らしく微笑ましさを感じました。できれば、体の中の影(顔、手、足)に若さが感じられる暖かい色を使うと、もっと若い女性の初々しさが表現できたのではないかと思われました。

■NHKさいたま放送局賞

「木漏れ日」
大久保佳代子(おおくぼかよこ)
木漏れ日
冬木立の木漏れ日の中に立つ少年像。爽やかな色彩と的確なデッサン力で、画面全体のバランスを良くとっており、冬の陽光の暖かさを感じさせてくれます。顔の表情と少し出た手、白いシャツと白いズボンと空の白とを上手くつなぎ、画用紙の白を生かしながら、画面を統一し、冬枯れの寂しさを作り上げています。

■埼玉県美術家協会会長賞

「白い残像・3.11-B」
小櫻京子(こざくらきょうこ)
白い残像・3.11-B
一見、淡く見える画面に、静かな強い存在感が満ちています。その存在感が遠景、中景、前景の全てに、適格なフォルムを与えています。描写の過不足感もなく、押すべきところを押し、広げるべきところを広げ、構成の妙も備えた作品となっています。画面中央にある縦型の白い細い風船状の形態に対して、異界の空とも見えるニュアンスに富んだ空間が、さらに生気を与える効果を発揮しています。中景の生命体とも見える、横に伸びた山状のフォルムが、画面の拠り所となって、画面世界を支えています。これらが在るからこそ、前景の、一見ザックリした描写が、実は繊細で的確であることを成立させ、静かでありながら、強い意志と存在感に満ちた作品として、この絵に強いリアリティを与えています。

■高田誠記念賞

「雑木林」
森 忠郎(もりただお)
雑木林
雑木林を奥において、前面から林まで畑が続き、道が中央に十字に走り、爽快で雄大な広さを感じさせる秀作です。筆の使い方、色の使い方が少し荒いようなところも見受けられますが、それが絵に張りと勢いを与え、林の描き方との調和を上手に使い分けて、雄大な風景画となっています。手前左側に木を二本描き入れて、距離感を出し、さらに道が手前から奥まで貫き、大地の広がりを感じさせています。また、右中央奥に小さな物置小屋を入れたこともよく計算されていて、手馴れた腕前の作家だと思われます。

ページの先頭へ第3部「彫刻」

審査主任 織本亘(おりもとわたる)
第67回県展の彫刻部は、昨年度に引き続き出品数、入選数共に昨年度を上回りました。彫刻とは何か、何を伝えたいのか、作品から何を感じるのか、作者の声を作品から感じとる鑑査及び審査になりました。受賞者の中には、昨年の受賞者4名が選ばれ、制作の意力を感じる作品が選ばれたと思えます。惜しくも受賞しなかった作品にも成長を感じさせる秀作もありました。惜しくも落選された方は、会場で何が足りなかったか探してみてください。

■埼玉県知事賞

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「想い」
吉田忠文(よしだただぶみ)
想い
昨年の埼玉県美術家協会賞に続き、本年もすばらしい力作です。手を後ろに組み、両足で立っている姿は、体が伸び、観ていてすがすがしさを感じます。時間をかけ彫り上げた作者の想いの詰まった時間を感じさせる力作だと思います。

■埼玉県議会議長賞

「思う」
奥平陽和(おくだいらひより)
思う
力を抜いた穏やかなフォルムの中に作品のテーマが効果的に表現されている作品です。うなじから背中、腰にかけて流れる量が曲面で美しくつながり、よく観察された脚部で折り返されています。向かって左側に重心を置いて、上体をひねるムーヴマンから優れた造形力を感じることができる力作です。
頭部の形態と表現、量と量の谷間の表現にもう少ししっかりとした考えをもって制作するとさらに良くなると思います。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「lily white」
藤森美帆(ふじもりみほ)
lily white
情緒的な表情が魅力な胸像の彫塑作品となっています。素材は石膏ですが、薄く着色を加え、形が白飛びしないように落ち着かせています。シンメトリーな中にも変化を感じさせようと試行錯誤をしているのは大変良いところです。右肩から背中にかけての形の整理にもう少し時間をかけたいところです。
昨年の埼玉県美術家協会賞を受賞した作品は、テーマ性が強く新たな彫刻世界の可能性を秘めていましたが、その傾向とは一変し、アカデミックな作品を出品してきました。これは、彫刻をより深く学ぼうとする意欲や自身の描写力の挑戦なのか…。いずれにしてもこれだけ創れるということは今後の作品が楽しみです。

■埼玉県美術家協会賞

「IWATAI-M0207」
阿佐見昭彦(あさみあきひこ)
IWATAI-M0207
大理石の白色が、その存在を打ち消そうとしているのでしょうか。頭部が浮遊していて、表情の無い目は虚空を見ているようです。その目は真実に何を見ようとしているのでしょうか。不思議に物語性が高く、同時にその表現力、技術力の高さに、今後の作品にも大いに期待が持てます。

■埼玉県美術家協会賞

「双葉」
森下聖大(もりしたまさひろ)
双葉
一見、L字アングル2本を溶接して制作された形に見えますが、L字アングル特有の内側コーナーの丸みがありません。この作品は4枚のフラットバーを溶接して、外側、内側の稜線にまで神経を注ぎ、制作されたものと推測できます。
正面のフォルムは題名の通り植物が成長する緩やかで、優しい広がりを感じますが、側面からのフォルムは研ぎ澄まされた日本刀のような美しい反りを持っています。優しさと緊張感のバランスが取れ、命の尊さを感じさせる作品です。
この作品は、このサイズで完成はしていますが、5m以上で制作し野外に設置したら周りの空間(景色)をその表面に取り入れ、天空に伸びていく命を象徴する大作になると思います。

■読売新聞社賞

「少女」
曽根田誠太(そねだせいた)
少女
若々しく量感を感じる作品です。高校生が創ったそうです。とても初々しい作品です。
ここ数年高校生の等身像や大作が増えましたが、長く彫刻を続けるには、頭像程度の大きさで基礎力を十分身に付けてから、大学などで勉強すると良いと思います。

■埼玉県美術家協会会長賞

「生長の樹」
清水啓一郎(しみずけいいちろう)
生長の樹
昨年の埼玉県教育委員会教育長賞に続き本年もすばらしい力作です。量感、構成力はもとより、抽象、具象どちらも出来る力を持っています。今後もますますの努力とすばらしい作品を期待します。存在感のある大きな力作は、題名のとおり生命感を感じる作品に仕上がっています。

■高田誠記念賞

「モラン ~戦士~」
中村和彦(なかむらかずひこ)
モラン ~戦士~
作者はかねてより人体像を出品しています。今回は、マサイ族の戦士のようです。一歩間違えれば人形になりそうなところで、着色や細部の装飾に負けず、人体の構築的な把握に基づいたしっかりとした造形がなされています。人体の細部までこだわって制作された力作です。

ページの先頭へ第4部「工芸」

審査主任 西 由三(にしゆうぞう)
工芸部門の出品数は全348点、運営委員・審査員・招待・委嘱を除く審査対象作品、一般188点、会員114点、計302点と何れも昨年度と比べて僅かながら増加しております。工芸部内ではここ数年、高校生を始め若い作者の出品が目立っていることが出品数の減少に歯止めを掛けた形になっております。
今回の特徴は立体作品の増加に対し、壁面作品の出展が減少したことです。
印象としては小さくまとまった作品が多く、大作・力作といった物に物足り無さを感じる気がしました。よって受賞作も組皿など小ぶりな物が多くなりました。また、良く出来た作品でも内部や底部などに雑な仕上げが目立ったり、技術的に優れていながら図案、デザインの部分で思慮の足りない物、造形力不足の作品が多く、基礎の大切さを痛感しました。

■埼玉県知事賞

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「青風」
森田恭子(もりたきょうこ)
青風
横笛を吹く若い男性の姿をバランスよく仕上げています。民族的な衣装の青色ぼかし染が風を感じさせます。笛の音が風に乗って響き渡る、爽やかな光景を表現したのでしょう。顔の表情も清潔感があり好感が持てます。丁寧な布の木目込みと微少の赤の配色が効果的な熟練の技が光る秀作といえます。

■埼玉県議会議長賞

「野辺の早春」
原 知恵子(はらちえこ)
野辺の早春
春の野に出てみれば、かげろいの立つ見えて…。小鳥のさえずりや水辺を思わせる絣柄(かすりがら)を用いたやさしい色使いで、作者も楽しみながら制作されたように思います。これからも期待しております。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「待てど暮らせど」
別所徹子(べっしょてつこ)
待てど暮らせど
巾着袋から顔を覗かせた豚を銅版、真鍮板等で造形したユーモラスな作品です。殻から抜け出そうという作者の心の葛藤を表しているようで、見る者を引き付ける魅力があります。
技法は金属を金鎚で叩き変形させる鍛金(たんきん)で、豚の表情、巾着袋の皺等細かいところが丁寧に造られています。真鍮製の台座が少々雑な造りになっているのが悔やまれるところです。次回はもう少し大きい作品を期待します。

■埼玉県美術家協会賞

「縫取織着物『蝶よ花よ』」
安部里香(あべさとか)
縫取織着物『蝶よ花よ』
金茶地の濃淡の縞にところどころに横縞を配し、縫取織でバラの花、うろこ模様を全体に織り込んでいます。気の遠くなるような大変手の込んだお仕事で頭が下がります。どんな方がお召しになるのかとても楽しみです。これからもいろいろ挑戦してください。

■埼玉県美術家協会賞

「織部ヘラ目皿揃い」
小川美代(おがわみよ)
織部ヘラ目皿揃い
揃い物(五客組の皿)の小品としては、非常に大胆で大きな空間の拡がりを観る者に感じさせる優作といえます。
造形面では力強くヘラ目を一気に付け、深い緑色の織部釉(おりべゆう)を程よくたっぷりと器の表面に施し、しっかりと焼き上げています。
伝統的でありながら、斬新さも感じられる作品であり、今後の制作に期待が持てます。

■埼玉県美術家協会賞

「神代杉寄木造り 五角箱」
水野健吉(みずのけんきち)
神代杉寄木造り 五角箱
神代杉(埋れ木)を使った五角形の箱です。天板から側面にかけて、破綻なく模様を連結させた技術は見事です。底板は寄木の単板で、天板と側板は寄木の合板です。
やや改善の余地があるとすれば、インロウ造りのふたと身の高さの配分、ふたを開けた内面隅の始末(接着剤の拭取)、底部(高台部)の高さ・幅・丸みなどになります。

■テレビ埼玉賞

「春のよそおい」
奥住静江(おくずみしずえ)
春のよそおい
輪花の組鉢で、ほのぼのとした春の雰囲気をかもしだした作品です。技術的には鉢の口縁部5ヶ所を持ち上げ、5弁の境目を少しもり上げ、花心部分も盛り上げ、立体的造形に仕上げています。
彩色も花心部分を黄色と白色の顔料で塗り、その周りをピンクと紫色の顔料を吹き付け、やさしい花の表情を出しています。鉢の大きさもちょうどよく、使い勝手を考慮した制作でしょう。作者の人柄を偲ばせる、ほんのりと詩情を出した作品です。

■埼玉県美術家協会会長賞

「すすきの原」
近藤絹子(こんどうきぬこ)
すすきの原
広い広い風景を茶系の濃淡でたて割りにして袖、裾に黄・緑・ブルー等で吉野織を配しています。秋から冬へ移行する気配を感じさせる凛とした表情が、観る人を引き付けて離さない作品です。

■高田誠記念賞

「泥七宝花入『息吹き』」
伊藤明子(いとうあきこ)
泥七宝花入『息吹き』
泥七宝は、光沢のない泥のように見える不透明な七宝です。
色の境目の区切りは、真鍮線を使っていますが、大木の縦線が丹念に制作され、線の美しさと色のコントラストが緊張感を与え、作者の感性と技術から落ち着いた余情を漂わせる優れた作品です。

ページの先頭へ第5部「書」

審査主任 町田玄洞(まちだげんどう)
書道展の出品数はいずれの展覧会においても年々減少してきている事実があります。少子化や社会情勢の変化が影響しているのは間違いのないところですが、人生の幅を広げる美術に興味を抱いて貰えないのは残念なことです。
そうした中、心配された県展書部門の出品数はほぼ昨年度並みで安堵したところです。
県展の入選の厳しさは充分に周知されているでしょうが、鑑査及び審査担当者としても毎回改めて実感させられます。いつもとは一味違う作品を出品する意識がなければこの壁を突破できないと考えるべきです。
今回展の鑑査及び審査は可能な限り丁寧に進めたとの自負があります。例年問題となる誤字脱字ですが、今回は大分少なかったとの印象でした。引き続き慎重な字調べをお願いしたいと思います。
以下の短評は審査員が分担し、最後に文体を揃えてまとめたものです。参考として頂ければ幸いです。

■埼玉県知事賞

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「白居易詩」
齋藤青穗(さいとうせいすい)
白居易詩
シャープな線がリズミカルに進展する中、良くほぐれた渇筆が時々顔を出して絶妙の調和を見せています。文字の大小の変化も自然で、程良い行間や字間が美しい余白を生み出します。行末も伸び伸びとして決して窮屈ではありません。多様な線と工夫された字形が淡墨の妙味と相まって格調高い作品にしています。特に二行目「獨臥」の連綿は、濃淡、造形、筆さばきに魅了される箇所と思います。

■埼玉県議会議長賞

「何景明詩(かけいめいし)」
水野澄篁(みずのちょうこう)
何景明詩(かけいめいし)
ややもすると面白さばかりを求める昨今、このように真正面から構築性の高い隷書体に取り組む姿勢は評価に値するものと思います。懐の広い構えと深く紙に食い込む重厚な筆線は、他を圧する存在感を示します。画数の多い字の連なりや逆に疎画の文字の処理には繊細な配慮が行き届いているところもご注目頂きたいと思います。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「杜審言詩(としんごんし)」
鈴関春翠(すずせきしゅんすい)
杜審言詩(としんごんし)
中国の明末清初の書家である王鐸(おうたく)を長年に亘り臨書されたようで、それが作品の根底に流れていることを覗わせます。縦方向への流れよりも筆線の横への活躍が顕著で、作品の情緒といったものを高める要因になっているようです。文字の大小の変化や字間の余白の取り方に配慮し、明るさを演出していますが、全体の印象としては墨量豊かな堂々とした作品に仕上がっていると感じます。

■埼玉県美術家協会賞

「菅家詩句(かんけしく)」
飯室緑川(いいむろりょくせん)
菅家詩句(かんけしく)
書き出しの墨量を控え目にした点が功を奏しました。墨継ぎの文字をやや太めの線で強調し、書き進むに従って生ずる墨量の変化に無理がありません。やがて柔らかな渇筆が表れますが、その間の濃淡の移ろいが見事で、明るくありながら力強い作品としています。一行目「化」の造形は巧妙で、終筆の力強さが印象的です。行末も伸び伸びして、特に二行目の最後「徳」は余裕さえ感じさせます。

■埼玉県美術家協会賞

「奮鱗翼(ふんりんよく)」
島田素貞(しまだそてい)
奮鱗翼(ふんりんよく)
刻された印文そのままに、羽ばたき輝いた作品と見ます。「奮」の下に大きく空間を取って、「鱗」では込み入った字にもかかわらず光りを感じさせ、最終の「翼」で全体の動きを統合させています。明るい躍動感は見る者を楽しくさせる雰囲気を持ち、側款は素朴さに稚拙味を加味して親近感を覚えます。作品全体として見た時、印影と側款の拓との間隔や天地の空間バランスも良好に収められていると思います。

■埼玉県美術家協会賞

「王維詩(おういし)」
星野青楊(ほしのせいよう)
王維詩(おういし)
この作品の特徴はやや強い右肩上がりの横画にあると思います。その統一感が、すっきりとした近代的な印象を与えて爽快です。文字の構成は直線主体で字幅を狭めた形体が多く、それにより行間の白を際立たせることになります。文字の大小の工夫や所々に配した太い筆線が作品効果を上げています。

■さいたま市長賞

「ほのぼのと」
大谷青楓(おおたにせいふう)
ほのぼのと
「ほのぼのとあかしのうらの」で始まる有名な古今和歌集の歌を十数首連ねた細字の作品です。前半にゆったりと空間をとって徐々に密度を高めます。後半には豊かな大きな山を見せて、静かに収める表現様式としています。構成面、墨色、線質共に申し分なく、上品な「かな」の美しさを充分に表現した作品になっていると思います。

■さいたま市議会議長賞

「常建詩」
池田涼園(いけだりょうえん)
常建詩
全体に細身の深い筆線で構成され、墨の濃淡、文字の大小や線質の変化に工夫が見られます。一行末「永和」、二行末「桃花」や三行末「溪」など行末に大字を配したことで作品に安定感を与えています。一文字中での微妙な線質変化に特長があって、一行目の連綿「楊林」ではそれに文字の大小と墨の濃淡とが相乗して効果を上げた箇所だと思います。繊細で品の良さがある作品といえましょう。

■東京新聞賞

「七里灘(しちりたん)」
柿沼香彬(かきぬまこうひん)
七里灘(しちりたん)
粘りのある力強い筆が最大の魅力だと思います。同時に気迫に満ちた一貫性と鋭さも持ち合わせているように感じます。文字の大小を工夫した大きさの異なる文字群同士を適度な余白を挟みながら構成して行きますので、全体として立体的に見えるのが特徴です。二行目辺りにそれが遺憾なく発揮されています。

■埼玉新聞社賞

「李憕詩」
萩原彰子(はぎわらあきこ)
李憕詩
七言律詩56字をこの紙面に収める技量は、日頃の鍛錬の賜でありましょう。思い切った文字の大小は、それぞれの行に幅の変化を与え大きなうねりとなって流れを作ります。それに余白への配慮や横画の角度変化が働いてリズミカルな作品としているものと思います。渇筆に筆圧を掛けながら粗さを見せないのは巧みな筆さばきによるのでしょう。

■埼玉県美術家協会会長賞

「新晴晩望(しんせいのばんぼう)」
島澤鷺舟(しまざわろしゅう)
新晴晩望(しんせいのばんぼう)
まず感ずるのは、筆の抑揚を生かした表現の上手さだと思います。これにより筆線に太さの変化が生まれますが、特筆すべきは渇筆部分で筆が浮かずに紙をしっかり捉えていることです。また構成面では、二行目上部「樹」の終画が目を惹きますが、これだけ大胆にしてもこの行の字数は一行目より一字多いのです。その辺りの巧みさに驚かされます。

■高田誠記念賞

「成事不説(せいじふせつ)」
伊東鬼游(いとうきゆう)
成事不説(せいじふせつ)
金文を白文で表現し、右二字の動きは大変興味深いものです。「成」の右に流れる線と「事」の頭の右に突き出た線の絶妙な絡み合いにまず目を惹かれます。さらに「事」の左に伸びた二本の力強い線が素晴らしく、効果的に働いています。「不」は単調になりがちなところを線の太細変化で、「説」は偏旁を上下にずらす巧みな技を駆使します。観る者に感動を与える作品と思います。

ページの先頭へ第6部「写真」

審査主任 門倉進(かどくらすすむ)
今年度の応募総数は1,305点で、入選作品453点、入選率は34.7%の結果となりました。
鑑査及び審査については、これから先を見据えた作品を選考することが審査員に課せられた使命のような気がします。これらを踏まえて審査員9名の意思確認をし、作者の方々が一年間真剣勝負で作り上げた作品であるため、慎重を期し鑑査及び審査を行い、入賞候補は審査員全員で厳正な討議の上決定しました。
作品はデジタルカメラの進化に伴い、新しい写真表現が生まれています。それを使うことによって表現の幅や深さが増大します。
応募作品は、ネイチャー、動植物、生活空間、人物、海外と多種多様です。
その中で入賞者は、女性の活躍が目立ち7名の方が受賞しています。
今後は写真の基本である、ポジション、アングル、フレーミング、シャッターチャンスを考え、表現力の豊かな完成度の高い写真表現に挑戦してください。

■埼玉県知事賞

※受賞作品をクリックしますと拡大画像が表示されます。
「残照(ざんしょう)」
石川民男(いしかわたみお)
残照(ざんしょう)
光を強調し、画面のディテールを極限まで落とした3枚組です。
作者は光に対して独自のこだわりを持ち、ドラマを感じてシャッターを切り独特な世界観を表現しています。3枚とも隅々までしっかりとした解像感のある写真に仕上っています。作者の力量を感じました。

■埼玉県議会議長賞

「帰り道」
尾内勲(おないいさお)
帰り道
遠近感を画面に取り込んで帰り道を表現し、主題を的確につかんだ無駄のない安定感のある写真に仕上っています。
子供達の楽しかった会話が聞こえてくるようです。作者の温かい眼差しが感じられます。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「光のシャワー」
宇田陽子(うだようこ)
光のシャワー
水しぶきが光にあたり少女の姿がスポットライトを浴びたヒロインを演じているようで、この水しぶきが少女の夢を増幅しているように見えます。綺麗な映像美で優しい雰囲気を作りだしています。作者の感性が見事に発揮された映像です。

■埼玉県美術家協会賞

「記憶の森」
住 由子(すみゆうこ)
記憶の森
不思議な雰囲気の世界に惹かれます。子供時代の様々な記憶を呼び起こした、まるで夢の世界の断片のようです。独特な世界観が表現されたこの作品には洗練された魅力があります。少女の存在がさらなる物語性をかき立てるようです。

■埼玉県美術家協会賞

「光の元へ」
髙橋照治(たかはしてるじ)
光の元へ
ガード下と思われる、全体的に暗いフレーミングの中で、明るく輝く光の部分、明暗のバランスが程よい割合で占められています。
そして光に向かって歩く二人の後ろ姿を配置したことで、画面全体を引き締めてその光が画面に奥行を与えています。空間構成が見事に表現されていると思います。

■埼玉県美術家協会賞

「ゆらぎ」
根本八重子(ねもとやえこ)
ゆらぎ
作者のねらいと見る側の印象が必ずしも同じとは限らないと思います。
この作品は時の経過がゆるやかに流れ、その空気感が伝わって一枚一枚の作品に余韻が感じられます。そのどれもが絡み合って想像力をかき立てるシュールな世界を演出しています。この感じが「ゆらぎ」なのでしょうか。これがこの作品の魅力のような気がします。

■埼玉県美術家協会賞

「静寂」
野本昌寛(のもとまさひろ)
静寂
凛と静まりかえった世界に輝く光の輪、森の妖精のいたずらか?それを囲むように木々の描写。中心の写真に強烈なインパクトがあり、アンダーな世界からゆっくりと自然音が流れ、何を暗示しているのか想像力が膨らみます。独自の感性でとらえた秀作です。

■さいたま市長賞

「裏側」
矢作涼菜(やはぎすずな)
裏側
彼女は何を見たのか、見たかったのか。入り込めない社会を恐る恐る覗き込もうとしたのでしょう。大人の社会への興味と苛立ちが交鎖しています。ビールの空き瓶から昼の裏側が見えたのでしょうか。換気扇から落ちてきた油によって汚れたポスターに、大人社会の無神経さへの批判が込められているようです。
高校卒業の間際に撮影した作品と聞きました。成人と少女との狭間の中、大人では材料にできないものを組み入れた素直さに脱帽です。

■さいたま市教育委員会教育長賞

「願い」
一瀬富左男(いちのせふさお)
願い
シンプルさの中にも引き立てたいものがしっかりと感じ取れます。
女性の祈る姿が自然で、切なさがにじみでた静謐(せいひつ)な願いが心地よく伝わり、包み込まれるようで、見る側の感情に静かに訴えるイメージに仕上っています。作者も一緒に祈っている姿が想像できるようです。

■時事通信社賞

「演歌が聞こえない」
青木義雄(あおきよしお)
演歌が聞こえない
作品と題名が共鳴和音となりエレジーとなって聞こえて来るようです。
もっと他の写真が見たいという気持ちになります。かつて賑わった飲み屋街の路地裏、酔っ払いが肩組み合って流行り歌を唄い、また隣の店の暖簾を潜って行くような光景が見えます。作者の意図を題名でそれを見せてくれたような気がします。題名とした写真は懐古館(かいこかん)の写真でしょうが、敢えて玄関マットにいる猫のカットを赤で際立たせ配置したことによって、他の写真と繋ぎ合わせています。

■FM NACK5賞

「北の旅人」
豊田和代(とよだかずよ)
北の旅人
傷心の旅か、宵闇迫り、雨に濡れて反射する路面、店の灯りがさみしくともる。今宵の宿はどこに。見る者を引き込むようなリアリティー溢れる描写が素晴らしいです。画面の向こうに確かなストーリーの存在を実感します。作者のセンスの良さを感じます。

■朝日新聞社賞

「不穏な街」
田村真由美(たむらまゆみ)
不穏な街
作者は猫、夕暮れ時、火災跡の3枚組で不穏な街として、まとめています。特に2枚目の夕暮れ時の映像では、電線をうまく配置して、今にも何かが起こりそうな気配が感じられます。そして3枚目では、家も車も焼けただれた火災跡の映像を配置したことで、さらに不穏さが強調されています。作者の描写感覚には説得力があります。

■埼玉県美術家協会会長賞

「冬降りる」
山下智子(やましたさとこ)
冬降りる
僅かに紅葉が残る山里に、静かに冬が到来し、まさに冬景色に様変わりしてゆく様子が感じられます。そして降雪により、全体が霞掛かったような映像、古典的な手法でありながら女性の目線で優しい雰囲気に仕上がった作品です。

■高田誠記念賞

「夕映え」
大澤秋良(おおさわあきよし)
夕映え
強い西日が当たる、建物の壁面、自転車、中央の人物と思われる背中に当たる光は、何かを物語る印象深い写真です。上下2枚の写真の見せ方が大胆かつ斬新で、ドラマチックな空間使いの妙に圧倒されます。