第1部「日本画」
運営委員・審査員 三浦光祥(みうらこうしょう)
第62回展に日本画部に応募された数は、一般94点、会員128点、総数222点で、1審2審3審と鑑審査を行いました。選外になった作品の中にも、優劣のつけがたいものもありました。
受賞候補作品を12点選出し、その中から6点を受賞作品に選びました。また、委嘱者対象の2点については、全作品を対象に選びました。
日本画も従来型の制作方法だけではなく、新しい手法で試みてみることも良いことだと思います。
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「雛祭り」
駒崎美香子(こまざきみかこ)
雛段の前で子供達が遊んでいるさまを、淡い赤系の色で描かれています。実に微笑ましく、ほのぼのとした情景が優しい眼差しで表現されています。
■埼玉県議会議長賞
「なっちゃんの夢」
秋山律子(あきやまりつこ)
なっちゃんとは犬の事で、夢を見るとは、実に面白い題です。色とりどりの花が面と線で描き分けられ、花は面で描かれたのが多く、葉は線で表すのが多く、その対比が面白く表されています。程良く面と線の描き分けが良いです。画面を引き締めるように黒く犬がいます。
■埼玉県教育委員会賞
「色づく」
山岡登志美(やまおかとしみ)
林檎が成っている。暑い夏が終わり、秋に近付き実が色づき始めている頃合いを適確に捉えています。バランスよく実と背景が描かれていて、計算された良い作品と思います。
■埼玉県美術家協会賞
「さくら咲く」
福井加奈子(ふくいかなこ)
樹木に囲まれた屋敷に春が来て、さくらが咲いた。淡い色彩でまとめたのが春らしさを演出しています。また、手前の道が大きさを表すのに大切な働きをしています。
■埼玉県美術家協会賞
「白い朝」
服部麻津(はっとりまつ)
朝露の中に咲く、山百合。その他の野草の花が競い合う6月の1コマを描いています。この絵を平凡にしなかったのは、白で描いた事だと思います。十分に描きこまれた野草が映えます。
■毎日新聞社賞
「潜む性」
久野悠(くのはるか)
力強く顔と前足のみ描いて、どうだと言わんばかり、計算された実に良く出来た絵だと思います。適確な計算のもとに準備されたので、意外に早く描き上げた作品だと思います。
■埼玉県美術家協会会長賞
「兆し」
大塚光枝(おおつかみつえ)
水辺のほとり、新芽が出始める前の、もう春と思わせる日差し。もう十分に春を迎えるのに用意は出来たと、思わせる情景。この絵は細部にこだわらず、大胆に描いたことが成功しました。
■高田誠記念賞
「夏が行く」
村井みゆき(むらいみゆき)
淡い色彩に統一された人物画だと思います。描かれている人物の大きさが行く夏を表現していると思います。笛を持っている女性が描かれていますが、どんなポーズの女性をいれても、この絵は受け取ってくれると思います。
第2部「洋画」
審査主任 柏 健(かしわたけし)
第62回県展・洋画部の応募数は1,489点、入選は510点で、34.3%の厳選でした。
公平な審査を行うことを方針として、1審2審3審と各審査員の真摯な判断を大切にして選びました。
出品作品は、写実的な作品が多く見られました。高校生の作品もかなり多くあり、以前と比較すると水準は上がっているように見受けられました。県内の風景はもちろんのことですが、土蔵や農機具をモチーフとした作品が多かったのも県展ならではでした。
丁寧に描き込まれた作品が多かったですが、やや色彩に対する関心が薄いのではという印象を受けました。
入賞作品については、挙手、投票、そして話し合いを繰り返し、知事賞をはじめとする各賞を選びました。
選に漏れた作品の中には、もう少し基本的な力を身につけるようにすると良いと思われる作品が少なからずありました。
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「グリーンセンター」
大寺邦代(おおでらくによ)
絵に取り入れた角度と構成に作者の感覚の良さが感じられる。樹木の葉の緑とガラス窓を通した空の白とが曇りのない色調で描かれている。適度な絵具の厚さが稀薄な表現になっていないことも良い。
■埼玉県議会議長賞
「道」
羽鳥真生子(はとりまいこ)
都会の交差点であろうか。人の気配の無い風景は歪曲され、色面による構成によって現実とは違う時空を作り上げている。クールな色調とフラットなタッチが心地よく、作者の冷静で新鮮な視点を伝えている。アクリル絵具による色の作り方も巧みである。
■埼玉県教育委員会賞
「D-GIN・Ⅱ・ヒセイ」
醍醐イサム(だいごいさむ)
画面の右上より左下へ犬か鳥のような顔をした魚のような黒い生きものが斜めに横切っていて、鋭い動きとエネルギーを感じさせる作品である。計画的な手際の良さがそれを支えている。黒の中の白い輪郭線の鋭さも魅力である。
■埼玉県美術家協会賞
「RENASCENCE(ルナセンス)」
伊東由起子(いとうゆきこ)
ルナセンスとは再生、又は復活等と次を期して今は待つ、という意味と思うが、この作品を見るに、初秋の枯れた蓮の葉をモチーフに良く観察されている。色彩、構図共に良く考えられた作品である。
■埼玉県美術家協会賞
「ソウタの休日」
吉川和典(きっかわかずのり)
子供が川遊びして帰って来たところだろうか、子供に対しての作者の暖かい眼差しが感じられる。素朴な表現に好感が持たれる作品である。
■埼玉県美術家協会賞
「朝焼けの街」
舟越観月(ふなこしみづき)
ヨーロッパの街の美しさを端的に見取るには小高い所からの俯瞰図が便利である。この作品には一望無数にある家々を可能な限り再現しようとしている。普通はじっと眺める間に造形化するのであるが、ここでは可能な限り細部にこだわっている。その事が混乱に陥る事なく全部がマッスとして整っている。じっとおさえた色彩もやわらかくおさまっている。街景として秀作である。
■埼玉県美術家協会賞
「うす日」
関河英幸(せきかわひでゆき)
どこにもある情景であるが、静かな雪後風景の中に作者の穏やかさを感じさせる。手前の土手は今少し強い方がよいだろうか。詩情豊かなよい作品である。
■さいたま市長賞
「元荒川点景」
萩原達夫(はぎわらたつお)
最近は暗いニュースが多く、何かうっとうしい中、作品「元荒川点景」の静かでゆるやかな流れに写る線の影にその穏やかな風景がほっと豊かな心地を感じる。
■さいたま市議会議長賞
「雪道の竹」
斉藤紀久子(さいとうきくこ)
雪の中の竹林と道、雪の重さに竹がしなり凍て付いた寒さのにじみ出た作品になっている。雪道の白さと竹の緑の対比が美しい。少しだけの茶色の画面をひきしめている。
■さいたま市教育委員会賞
「室内人物」
高田茂樹(たかだしげき)
ひと目でデッサンの狂いが解ってしまう人物画は本当に難しいと思う。この作品は白黒のワンピースと黒のカーディガンが、色白のモデルの表情を引き立て、観る人は自然と画面に引き込まれてゆく。構図もすばらしく、床の色が黒の洋服を着た人物をいっそうきれいに引き立て、人物の人柄まで感じられるよい作品だと思う。
■NHKさいたま放送局賞
「五月の風に吹かれて」
林 敏政(はやしとしまさ)
現実に見つめる事と、一旦写真に撮った世界を逆転せしめて、それを一体化させていく。写真が示す微小な部分の視覚は、絵画する方法論の中で、実は似て非なる意味合いを現出する。これは、現代の具象の大きなテーマであって、この作家は見事に成功したのである。
■読売新聞社賞
「午後の空間」
酒井嘉満(さかいよしみつ)
静物画と言えば静物画であるが、この作品はテーブル、つまりは台が主役の静物画である。画集、カップ、カメラ、時計、椅子、ちらりと猫、隅っこに空き缶、それら作者の思い入れが詰まったものたちが、古びた木製テーブルを中心に、それとなく、かつ巧みに計算されて配置されている。構成の妙味と心情を緻密な手仕事により、絵画的な空間を出現させている秀作である。
■テレビ埼玉賞
「霧多布岬」
堤 利男(つつみとしお)
霧多布岬がどっしり黒々と沖に延び、躍動感のある力強い作品であると感じる。手前の残雪の白と黒々とした岬のコントラストが画面を引締め強い作品になっている。
■東京新聞賞
「明日へ」
落合敏江(おちあいとしえ)
ありふれた構図の座像ではあるが、モデルの初々しさが、素直に描かれており、好感のもてる作品である。
■埼玉新聞社賞
「訓誨」
黒木正美(くろきまさみ)
題名の示す通り、女性信者が老師の教えを受けている場面だろうか。そうした心情的なテーマを構成するデッサンは、厳格でしかも穏やかで自然である。あまりに自然で穏やかに見える絵であるため、その背後にある形と色の構築美が隠れて見えにくいかもしれない。しかし、優れた油彩画のメチエで描かれた、落ち着きと風格がある趣ある秀作である。
■時事通信社賞
「無限(A)」
依田元明(よだもとあき)
すべてが無限に連鎖し次への律動へと変化していく。平面の平塗りの原理をつらぬいている。色彩は少しずつ変化して、ずっと追っていくとめくるめく快感へと誘う。現代美術がこのように観る者の仕掛け方を模索するその心映えは楽しい。
■埼玉県美術家協会会長賞
「春野道」
佐藤そのえ(さとうそのえ)
母子像がモチーフの絵であるが、ゆったりとした形の表現は安定しており、大きな形と小さな形を複雑に組み合わせている。画面の中程に入っている白の面に意外性があり、左側の赤茶の画面と右側の緑の画面を引締めている。
■高田誠記念賞
「刻」
出浦和雄(でうらかずお)
卓越した色彩の調和のとれた作品である。秩父の農家に生まれた作家は幼い時から見慣れたモチーフのために詩情を感じられる作品である。
第3部「彫刻」
審査主任 齋藤由加(さいとうゆか)
今年の彫刻部は、出品数が昨年より微減し、この世相の中で立体制作を志すことのハードルの高さを改めて実感しましたが、負けずに例年以上の作品を出してくれた方や、やる気に満ちた笑顔で初出品をしてくれた方など、その意欲に大いに励まされました。
特に目立ったのが比較的年配の方の力作で、年齢に関係なく生き生きとした感性と新しい試みに溢れる作品に、大変感心しました。そしてまだ拙さはあれど一所懸命さの伝わる高校生をはじめ、若い作者の頑張りも多く見ることができました。
その分、本来は一番活躍すべき中間の年代で、出品を諦めてしまったり、以前ほどの勢いを感じなくなっている人が多いように思います。日々の多忙な生活の中で、大作に挑むことの困難は痛いほど理解しますが、ここは是非年配者の元気にならい、力一杯自由な自己表現をすることの喜びを、再実感していただきたいと思います。
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「収穫祭」
清水啓一郎(しみずけいいちろう)
大きな大理石を高い技術で大胆に彫り上げた作品で、他作品を圧倒する存在感がありました。威厳ある重厚な形状の椅子に、果物や花など物語性のあるモチーフを散りばめ、構成しており、重量感だけでなく、暖かさや音楽のようなものも感じさせる作品になっています。素材の強さを存分に生かしつつ、着実で丁寧な作業で柔軟な表現を実現している所に、作者の力量を感じます。
■埼玉県議会議長賞
「大地の詩2011」
矢島秀吉(やじまひでよし)
量感と動き(ムーヴマン)が心地良く調和し、柔らかくも力強さのある佇まいを見せる裸婦像です。あまり大きいものではないとはいえ、全体に手の行き届いた優しい雰囲気には、作者が正面から素直にモデルに向かった真摯さがうかがえます。
■埼玉県教育委員会賞
「ふたたび海を」
石塚郁江(いしづかいくえ)
瞳を閉じて静かに佇む清楚な女性像です。身体表現の技術としては、部分的に若干甘いところも見られますが、きちんとまとまった造形で、爽やかな若い女性をすんなりと見せています。今後着色やテクスチャなどもより研究して、更なる個性を見せてもらえたらと期待します。
■埼玉県美術家協会賞
「茜色の道化師」
市之瀬宜久(いちのせよしひさ)
染まったような茜色に情感をにじませる若い道化師の肖像です。高い技術と表現力には、毎回のことながら目を見張るものがあります。色合いや肩の切り方、台座の素材や表面の仕上げなど、随所に工夫が見られ、丁寧に仕上げられています。
■埼玉県美術家協会賞
「メリダの娘」
磯 廣子(いそひろこ)
印象的な異国風ムードのある女性の坐像です。しっかりとした塊感を持ち、強い意志の感じられるフォルムと、漆の特性を生かした着色技法がうまく噛み合い、どっしりとした魅力ある雰囲気を作り出しています。
■FM NACK5賞
「絆」
栗原利記(くりはらかずき)
曲面で構成されたやわらかな表情と緊張感を併せ持つ石彫作品です。技術的には多少完成度が不足しているものの、自分なりのフォルムを創りだそうと、情熱を持って仕上げた姿勢が感じられます。今後技術をより高めつつも、ただきれいにまとめる方向ではなく、その自由な創造感覚を育てていって欲しいと思います。
■埼玉県美術家協会会長賞
「きらめき−倖」
瀧口健治(たきぐちけんじ)
若い恋人たちの未来を感じさせる幸福な情景を、人情味あふれる優しい造形で表現した作品です。作者ならではの、明るく誰もがふと笑顔になるような作風に、作者の心暖かさが感じられます。
■高田誠記念賞
「一枚から生る」
杉田龍(すぎたりゅう)
題名の通り、厚みある一枚の鋼板を大胆に切り抜きつつ、空間を生かした構成を施した作品です。白と腐食を生かした色の仕上げ方や、リズムのある空間構成が見事にはまって、大変気持ち良くまとまった、完成度の高い大作です。
第4部「工芸」
審査主任 関井一夫(せきいかずお)
第62回展の工芸部門は、昨年より出品者数・出品点数共に若干増加し、応募総数357点でした。審査は例年通り2日間に渡り、見直しを繰り返しながら、ここ数年では最も多い200点の作品を選出しました。更に入選作品の中から賞候補を選出し、投票を重ねながら絞り込み、受賞作品を決定しました。
今回の公募受賞作品は、陶芸・金工部門からの20代〜40代の若手・新人の躍進が目立ちました。また、その一方で染織部門のベテランが多く評価される結果となりました。残念ながら他の部門から受賞に至る作品はありませんでしたが、次回展に期待したいと思います。
委嘱を対象とした受賞は、通年に比べ数多くの賞候補が上がったと感じました。染織・陶芸・革・紙・金工・七宝等の作品に対して、投票を重ね絞り込みながら、最終的に得票数の高い2点が選出されました。委嘱の方々は、次回も力のこもった作品をお待ちしております。
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「花綱・草木染」
田所智江(たどころともえ)
山桃染めの淡い地色に、コチニール、藍で絣染めにした糸を並べ、紋織りで織地に変化を加え、軽やかに模様がつながってゆくリズム感が楽しい着物です。草木染めの透明感と、それを活かした織り技法で、華やいだ雰囲気の作品に仕上がっています。
■埼玉県議会議長賞
「青白磁彫文鉢」
松永慶(まつながけい)
まず、口部にヘラによる六ケ所のアクセント付けをする事で、器体の有機的に変化するデザインをさり気なく演出しています。そして、大きく膨らんだ胴部を取り巻く凹凸のリズミカルなデザインと、全体を包み込む程良く抑制の利いた淡青色の釉から成るこの作品は、高い技術と造形的な配慮の上に立つ、作者の明確な制作に対するイメージが強く伝わってくる秀作といえます。
■埼玉県教育委員会賞
「クレオパトラ」
隈井純子(くまいじゅんこ)
銅板を用いて変形絞りという鎚起技法で制作した、独特な人型の金工作品です。金槌による絞りや鏨仕事という、彫鍛金の技術を操りながら、均整のとれた造形美を個性的なスタイルで表現しています。また板材である点を大胆に造形の中心部で見せつけながら、細部まで緻密に仕上げられた完成度の高い作品です。
■埼玉県美術家協会賞
銀銅菓子器『群生(ぐんじょう)』」
木村智久(きむらともひさ)
鎚起の器物の蓋に、直線や幾何学図形模様の銀象嵌を施し、端正に仕上げられた好感のもてる作品です。そして、中央部の幾何学図形を不規則に配置し、蓋の上面部と側面部の象嵌技法に変化をつける事で、柔らかい雰囲気を持った優しい作品となっています。
■埼玉県美術家協会賞
「手描染着物 アンブレラ・ツリー」
黒田眞理(くろだまり)
本友禅染の特徴は、自由な図柄と多彩な表現にあります。この作品は、左肩から右裾に流れる植物の構成と、緑を中心にした色相が巧く噛み合って、爽やかな印象を与えています。地色の部分も、流れ紋的に扱うことで、作品の造形性を高める効果を上げています。
■埼玉県美術家協会賞
「路 経緯絣」
近藤絹子(こんどうきぬこ)
経緯絣で大胆な格子を表し、横段に平織りの変化を織り込むことで、奥行きのある作品に仕上がっています。帯地としてのデザイン、素材の選択、染色技法、機織りと、一貫した制作への想いが感じられる作品です。
■朝日新聞社賞
「浸偶彩晶器」
森田高正(もりたたかまさ)
確かな作りで、土の持つ硬質感を表しながら、力強い造形性が感じられる作品です。膨らみと稜線を強調したフォルムは独特の雰囲気を醸し出しており、口の作りが、この個性的な作品を一層効果的に見せています。
■埼玉県美術家協会会長賞
「菱絽織着尺『新樹(しんじゅ)』」
松浦弘美(まつうらひろみ)
「新樹」の題名にふさわしい、糸の配色が気持ち良い作品です。作者の菱絽織り技術の高さが、更にこの作品の完成度の高さを見る人に印象づけています。着尺のままでも十分着物になった時の良さを感じさせる秀作となっています。
■高田誠記念賞
「切り離された方体」
高澤則子(たかざわのりこ)
二つの凹凸に分けられたオブジェ作品です。面の位置関係、曲線の連続性と必然性、彩色の仕方等に工夫が見られ、作者が構想を十分に温めた上で、じっくりと取り組んだと思える意欲作です。
第5部「書」
審査主任 町田景雲(まちだけいうん)
今回の公募作品点数は、527点で前回展に対して15点の減でした。この出品点数の課題解決は難しいことですが、前向きに考えていかなければなりません。入選点数は308点、入選率58.4%で前回展に比べてやや厳しい結果となりました。出品者は県下全域からで、作品の内容は全体的に向上していると思われます。喜ばしいことは、出品者の平均年齢が相当高い中、高校生の出品が増えたこと、篆刻で入選者が7名出たことです。このような若い力がさらに大きく育つことを期待します。
鑑審査は公平に慎重に各々の作品を吟味して決定いたしました。感想として、やはり入選、特に特選受賞は大変なことと思いました。鑑審査にあたり、良好な作品は、見る人を瞬時に捕らえる響きがあります。作品全体の構成、点と線の造形美、線の厳しさなど目に留まります。県展の厳しさは周知のとおりですが、厳しさがまた魅力です。普段、技術的な練度はもちろん、臨書や鑑賞によって書的体験を少しでも多くし、書的な地盤を肥沃にすることが大切なことと思います。
入賞作品の選定に当たり、誤字・脱字の問題で良い作品を外さざるを得なかったものがあり残念です。心して制作に当たっていただきたいと思います。
以下の短評は審査員が分担し、執筆いたしました。参考として頂ければ幸いです。
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「李白詩」
高岡豊流(たかおかほうりゅう)
七言絶句の二十八文字を三行に淡墨を駆使して書いた作品であるが、線が伸びやかで冴えており、余白を十分に生かした美しい作である。そして見る人に感動を与える賞に相応しい佳作と言える。
■埼玉県議会議長賞
「緑丹より」
三村翠(みむらみどり)
墨色が美しく、紙の大きさに対して構成・行間のバランスも素晴らしく、そして書きぶりも力強さの中に品があり、潤滑の変化もあり、見る人の心が「ほっと」和むような「かな」本来の気品ある作品になった。
■埼玉県教育委員会賞
「王維詩」
萩原彰子(はぎわらあきこ)
五十六文字(七言律詩)を引き締まった線で女性とは思えない力強さと、大小、肥痩を混じえながら躍動し、余白を生かした明るく爽快な作で、見るものに訴えかけてくるものがある。さらに研鑽を積み、見るもの、聞くもの全てから豊かな感性を養い、前途を期待したい。
■埼玉県美術家協会賞
「春たてば」
吉田敦美(よしだあつみ)
うすクリーム色の紙に直筆・細線で回転を大きく動かし、上下・左右の響き合いも素晴らしく、書き出しから終わりまで線がゆるむことなく書き上がり、構成も細字特有の寂しさがなく「ボリューム」のある作。
■埼玉県美術家協会賞
「終南山」
島澤鷺舟(しまざわろしゅう)
五言律詩を三行に書く。紙面を切り裂くような筆線と全体を貫く躍動感に圧倒される。個々の文字は、強い意志を持つかのように縦方向にグイグイと進んでいくが、字幅の変化で息苦しさを感じさせないのは流石だ。また書者のしなやかな感性も輝く見事な作である。
■埼玉県美術家協会賞
「陸游詩」
平岡東澤(ひらおかとうたく)
五十六文字(七言律詩)の字間をあけ、横並びに配字し、統一感がある。懐の広い、ゆったりとした隷書。古隷に通じる質朴・沈着の運筆で、衒いのない文字に澄んだ気持ちで無心に筆を運ぶ書者の心情が見えるようである。清澄で安定感抜群の作。
■さいたま市長賞
「陶淵明詩」
柚木翠蓮(ゆのきすいれん)
五言律詩七十文字を四行にまとめた隷書であるが、一字一字が力強い線で書かれたもので、線に乱れもなく一定のリズム感があり、鍛練された良い作品と言える。
■さいたま市議会議長賞
「陸游詩」
飯室緑川(いいむろりょくせん)
二十八文字(七言二句)を若々しく、伸びやかに表現している。墨色も良い。墨量はやや多めだが、重苦しさを感じさせない。むしろ豊かさの中から軽快なリズムが伝わってくる。
■NHKさいたま放送局賞
「花下忘帰」
柳澤玉瑛(やなぎさわぎょくえい)
白楽天の句、「花下忘帰」を封泥の風合に仕上げた力作。落款も見事。全体に品良く引き締まった感じがする。文字の粗密を考慮し、布置も「下」字の大胆な空間に圧倒される。印文も季節感がある。
■共同通信社賞
「呉志淳詩」
柳田桂鶴(やなぎだけいかく)
五言律詩を動の楷書ともいう六朝の書風の特性を自分のものとして生かし、頑健なる線質はよく練れ、泰然とした運筆の中に、重厚さと豊かさを感じる。しかも落款印にも気を配っているところは、大いに感銘を受けた。
■埼玉県美術家協会会長賞
「本来無一物」
天ヶ嶋翠蘭(あまがしますいらん)
本来の隷書体を現代風に表現した傑作である。筆の穂先を自由自在に駆使しての粘り気のある枯淡な線質は、作品に味わいと気品を漂わせている。側筆を使っての豪快な力強い線は、作品を大胆にスケールの大きいものに表現させていて実に見事である。また字形については、扁平にならないように端正で周りの空間と調和させている。
■高田誠記念賞
「旅」
清水澄江(しみずすみえ)
金槐和歌集の十首を白に近い薄みどりの料紙に書かれた作品。格調高く作者の感性が伝わってくる。散らし方も自然で字の大小の組み合わせ、伸びやかな強い線、円やかな暖かい線が自在に絡み合いリズムを奏でている。墨量も心にくいほど巧みに配置され、美しく心打たれる見応えのある傑作。
第6部「写真」
審査主任 門馬立(もんまりゅう)
第62回県展応募総数1,306点、入選427点、入選率32.7%の厳選でした。最後の8賞については審査員9人のディスカッションの合意により決定しました。
今やデジタルカメラの時代になり、携帯、コンパクト、一眼レフ、様々なカメラが自動化されて老若男女、何の習熟もなくシャッターボタンを押しさえすれば写真撮影ができます。
また、さらにパソコンやプリンターの簡素化によりプリントも容易です。このようなメカニカルな機構でもっても被写体と向き合った時には、フレーミングやシャッターチャンスは自分自身が決めるのです。そこに写真家として多種多様な視点が生まれ創造に結びつくと思います。
次回展も是非フレッシュな作品を期待しております。
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「心の響き」
市ノ川定男(いちのかわさだお)
一見して変化のないモノクロの目立たぬ写真に思われがちです。淡々とした日常を壁の中に秘め、そしてたった1枚の石仏。誰しもが無意識のうちに求めている彼岸。心の中の虚構の真実まさに人生。素晴らしい作品です。
■埼玉県議会議長賞
「羽ばたく春」
庵地紀子(いおちのりこ)
これだけの舞台を見つけた眼力が素晴らしいです。花、鳥、道、この遠近感のバランス。この舞台に日本の将来を担う二人の子供、楽しい話し声が聞こえてきそうです。
この一瞬を見逃さず撮ったスナップショットは並々ならぬ腕前と見受けられます。
■埼玉県教育委員会賞
「光差す」
齋藤たつみ(さいとうたつみ)
この写真は場所を表現するでもなく日常どこにでもいる女性が漠然と立っている映像です。しかし、作者は彼女と自分をオーバーラップさせたイメージで表現したと思われます。背景の空間と光と人物が一体となって不思議な雰囲気と魅力を作っています。何故か白い靴が強く印象に残りました。
■埼玉県美術家協会賞
「お稚児さん」
岡 和範(おかかずのり)
大変にぎやかなお祭りの一コマです。子供達のイベントの待ち時間ですが、小さい口の大きなあくびは、言葉に表せない意思表示の表れですね。小さな口ですが存在は大きいです。逃さず撮ったカメラマンの気配りを誉めたいです。
■埼玉県美術家協会賞
「冬のファンタジー」
田中高子(たなかたかこ)
今年の冬は一段と寒さも厳しく大変な苦労が見受けられます。あれだけの氷のパターンを見つけるのは並大抵ではありません。一枚一枚違ったパターンをバランス良く四枚にまとめました。見るだけで凍て付きそうです。
■埼玉県美術家協会賞
「記憶の夏」
鈴木浩幸(すずきひろゆき)
広い海と防波堤、岸壁、単純な映像なだけに印象的です。旗と子供でアクセントをつけ画面を引き締めています。海の見えない岸壁の向こう側に個々の映像暗示があるのではないでしょうか。だだっ広い海の片隅をうまくまとめています。
■埼玉県美術家協会賞
「温もりを買う」
長沢攻(ながさわおさむ)
現代社会の文明の利器、自動販売機はいろいろな面で賛否両論がありますが、題名よろしく、厳しい雪の中での仕事中の休息の時間、砂漠の水に匹敵するくらいの有り難い自動販売機ではなかったのではないでしょうか。作者の写真に対する執念もありますが、シャッターも温かい気持ちで押したと思われます。
■さいたま市長賞
「寄り添って」
石原孝夫(いしはらたかお)
まずこの花を見た時のイメージセンスを誉めたいと思います。ほのかに柔らかい光がこの花をより一層印象深い物にしています。題名のごとく、過去現在の幸せもさることながら、未来までの幸せが見える様な気がします。写真のテクニックがないとこれだけの映像は出来ません。素晴らしいです。
■さいたま市教育委員会賞
「想い」
古出富子(こいでとみこ)
目を意識したポートレイトです。口を両手で覆っているためより一層瞳が強調され瞳の奥に自分の将来の安否を感じているかもしれません。背景の黒と白が過去と未来を表している様です。モノクロのグラデーションのバランス、フレーミングも隙がなく素晴らしいポートレイトです。
■埼玉新聞社賞
「店番」
多胡義友(たごよしとも)
いつもは母親といるかも知れない子供が店の中で一人寝ている姿を見て、店番と見た作者のユーモア。子供の幸せな寝顔に思わずカメラを向けたと思います。この子の微笑ましい人生の一コマの楽しい記念写真になりました。
■産経新聞社賞
「夜明けの詩」
長 秀之(ちょうひでゆき)
毎日見ている景色を詩的に表現しています。人間の心は、四季折々、喜怒哀楽、月明かり雲・太陽の位置等によって日々変わります。それと同様に景色も違って見えます。早朝の空気感が伝わってきます。
■日経新聞社賞
「光の海」
小林伸一(こばやししんいち)
現代都会の光の渦をカメラで写し、カラー効果をいかんなく発揮して光の海のイメージを表現しています。また、そんなに急いで何処行くの…を電車で比喩し、真面目で慌ただしい日本人を象徴しているかのようです。面白い作品です。
■埼玉県美術家協会会長賞
「緊張の時」
岡部蝶子(おかべちょうこ)
素人農村歌舞伎の出番前の緊張と不安が子供ゆえに画面から溢れ出そうです。カメラアングル、光線、構図、すべてが整っています。こうした地方文化を長く継承していってもらいたいです。
■高田誠記念賞
「祈願」
千田正実(せんだまさみ)
目の中に入れたいくらい可愛い孫のお宮参りらしく、おばあちゃんも幸せにひたっているようです。やがて大きくなって巨木のように逞しくなることを祈っての宮参り、写真の中にこれだけの巨木を入れたということは、孫への期待の現れかと思います。